 
							10月18日・19日に上越市の高田本町商店街で開催され、約4万人が来場した「第20回越後・謙信SAKEまつり」をはじめ、10月は県内各地で酒蔵単独や複数の蔵が連携したイベントなどが開催され、多くの人たちが新潟清酒を堪能し、蔵人との交流を楽しんだ。
さらに注目したいのが、各地域が一つとなり、日本酒を含めた「発酵」をテーマとした取り組みが行われたことだ。
発酵食品への関心はブームではなく定着し、年々高まっている。発酵食品の一つである日本酒を醸造する酒蔵でも、「発酵」という広い視点から日本酒を多世代に、わかりやすく、楽しく伝える動きも出てきている。今回は、発酵をめぐる酒蔵の取り組みを紹介する。
長岡市の宮内~摂田屋(せったや)エリアでは数年前から発酵を核としたさまざまな体験プログラムやイベントなどを実施する取り組みが行われており、2025年は10月12日に「HAKKOtrip2025」を開催。蔵でのジャズライブや長岡農業高校での醤油の仕込み体験など、エリア内で多彩な体験プログラムを実施。「吉乃川 酒ミュージアム醸蔵」では日本酒とおつまみのペアリングを楽しみながら吉乃川や日本酒造りの話などを聴く「発酵パネルディスカッション」が行われた。
そして今年、新潟市西区~西蒲区、弥彦村の旧北国街道エリアで新たな取り組みがスタートした。
「オーライ!発酵街道開(はっこうかいどうびらき)」と称し、10月4日~13日まで、旧北国街道沿いに点在する日本酒やビール、ワインの醸造所、ウイスキーの蒸留所、漬物店やパン店など、「発酵」でつながるさまざまな業種が約30の取り組みを同時多発的に実施。
日本酒蔵としては、西区の塩川酒造、樋木酒造、高野酒造の3蔵の利き酒ができる「うちのDE月見酒」や、「杉玉づくりワークショップ」(塩川酒造)、「蔵開き」(笹祝酒造、高野酒造、たからやま醸造)などが開催された。

最終日の10月13日に高野酒造の貯蔵棟で開催されたクロージングトークイベント「発酵する地域と人」に参加した。

『ソトコト』編集長の指出一正(さしでかずまさ)さん(写真右)による講演と、指出さんと西蒲区越前浜在住の「植物染め浜五」の星名康弘さん(写真右から4番目)、同区松野尾在住の「松野尾みらい会」の五傳木陽介さん(写真右から3番目)、この事業を企画した新潟市西区地域課の五十嵐圭太さん(写真右から2番目)のクロストークが行われた。クロストークの進行を務めたのは今回の企画をプロデュースしたU-STYLE(新潟市中央区)の橋本安奈さん(写真左)。
指出さんの講演では、豊富な経験からあふれるワクワクするキーワードが次々に飛び出し、その解説を通して、全国各地の興味深い取り組みが紹介された。クロストークでは、地域の魅力や課題、今回の企画に込める思いなどが熱く、楽しく語られた。
トーク後、今回のイベントの実行委員長を務めた高野酒造社長の高野英之さんが締めの挨拶を行った。高野さんは日本酒の発酵のメカニズムである並行複発酵を例にあげて、こう語った。
 「1つのタンクの中で麹菌と酵母菌が同時に、居心地よくそれぞれの仕事をする日本酒造りのように、発酵街道のエリアで、内外のさまざまな人たちが交流し、何かを生み出していく。今回の取り組みが地域を動かす大きな動きに発展していく予感がしています」
「1つのタンクの中で麹菌と酵母菌が同時に、居心地よくそれぞれの仕事をする日本酒造りのように、発酵街道のエリアで、内外のさまざまな人たちが交流し、何かを生み出していく。今回の取り組みが地域を動かす大きな動きに発展していく予感がしています」
約10年前から「にしかん醸造街道」の構想をもって自社や他社との連携の取り組みを行ってきた高野社長は、醸造街道から発酵街道へ進化を遂げたことに大きな期待を抱いている。

高野酒造では2023年4月にオープンファクトリー兼直売所「KURABO」をオープン。



直売所からはガラス越しに瓶詰め作業を見学できる。

さらにガイド・試飲付きの酒蔵見学ツアー(予約制、有料)も行っている。米と水を原料とする日本酒がどのように発酵し1本の製品になるのか。日本酒を飲む飲まないに関係なく、その工程に皆興味を抱くはず、という思いがそこにある。
発酵街道開のエリア内にあり、10月4・5日に蔵開きイベント「蔵Be Lucky 2025秋」を開催した笹祝酒造でも、酒蔵見学や直売所での試飲を行っている。



さらに麹文化を次世代へつなぐことを目的に「麹の教室」を開催している。

直売所脇の体験型キッチンで、塩麹・醤油麹作りのワークショップ(予約制・有料)を実施。土日祝日にはノンアルコールの麹ドリンクも販売している。
 笹祝酒造社長の笹口亮介さんは「麹は日本酒、みそ、醤油など、古くからの日本の食文化を支えてきました。子どもから大人まで、誰もが気軽に麹の世界に触れることで、当社が代々受け継いで来た麹造りの技術と、その力で発酵させる日本酒を次世代につなげていきたいと考えています」と思いを語る。
笹祝酒造社長の笹口亮介さんは「麹は日本酒、みそ、醤油など、古くからの日本の食文化を支えてきました。子どもから大人まで、誰もが気軽に麹の世界に触れることで、当社が代々受け継いで来た麹造りの技術と、その力で発酵させる日本酒を次世代につなげていきたいと考えています」と思いを語る。
新発田市の菊水酒造では2025年4月29日に「KIKUSUI 蔵GARDEN」をオープンした。
発酵を五感で楽しめるラボや発酵カフェ、ショップがあり、年齢を問わず発酵文化に触れることができる。

オープンまでに費やした期間は約2年。「KIKUSUI蔵GARDEN」ディレクターの南波麻美子さんに経緯を聞いた。
「髙澤大介社長から、日本酒を販売するだけでよいのか、わが社の強みを生かしてお客さまを驚かせ、楽しませることは何なのか考えてみようと提案があったことから、このプロジェクトが始まりました。8名のメンバーで検討を重ね、日本酒の敷居を下げる、間口を広げる要素として『発酵』が出てきました。生活に根差した『発酵』の先に、米から造る日本酒があると」
そこから社員たちがコンセプトを考え、0から具体的なものを生み出す作業を積み重ね、現在の形に至ったという。
「ターゲットは30~40代の発酵に関心がある人。その親世代、子世代の3世代で訪れてもらえる場所を目指しました」と南波さん。「加治川のほとりという北越後の自然環境の中でゆったりと、『発酵』を体験できる。それぞれの世代が楽しめる場です」

ラボとショップは、1907年築の醤油蔵の古材を天井と梁に再利用した歴史の重みを感じる空間にある。
ラボでは発酵文化や日本酒文化をイラストマップなどでわかりやすく展示。
 日本酒の発酵に関係する乳酸菌、酵母菌、酢酸菌について紹介する展示の前には、蔵人手作りの菌たちのマスコットも添えられており、微笑ましい。
日本酒の発酵に関係する乳酸菌、酵母菌、酢酸菌について紹介する展示の前には、蔵人手作りの菌たちのマスコットも添えられており、微笑ましい。
 日本酒の香りを体験できるコーナーには5種類の香りが用意され、何の香りに似ているかを予想してから、答え合わせ。香りを想像する体験は日常あまりないことなので、大人でも夢中になってしまう。
日本酒の香りを体験できるコーナーには5種類の香りが用意され、何の香りに似ているかを予想してから、答え合わせ。香りを想像する体験は日常あまりないことなので、大人でも夢中になってしまう。
さまざまなワークショップも予約制で開催している。11月15日は「発酵ワークショップ 発酵あんでつくる和菓子づくり体験」、11月22日は「味覚ワークショップ 五感で学ぶ手作り“おむすび”と味覚体験授業」が予定されている。最新情報は公式サイトで確認を。

ショップでは菊水酒造の定番商品や季節限定酒のほか、目の前で瓶詰めする「蔵出し瓶詰生原酒」も販売。有料試飲コーナーもある。
 酒粕を使ったスイーツや北越後のグルメも所狭しと並ぶ。オリジナルの酒器やてぬぐい、がま口などのグッズ類は、見ているだけで心が浮き立つ。
酒粕を使ったスイーツや北越後のグルメも所狭しと並ぶ。オリジナルの酒器やてぬぐい、がま口などのグッズ類は、見ているだけで心が浮き立つ。
平日でも開店前から行列ができるカフェでは、麹や酒粕を使った料理やスイーツを存分に楽しめる。

カフェの大きなガラス越しには菊水庭園がある。木漏れ陽が心地いい空間で、庭師・田中泰阿弥(たなかたいあみ)が手掛けた枯山水の庭園を眺めながら過ごす時間は、至福この上ない。

季節ごとに変わるランチではベーグルサンドやドリアなどを提供し、発酵ドレッシングで味わうサラダが付く。

10月のメニュー「新発田牛の酒粕キーマカレードリア ~温玉のせ~」は
新発田牛と酒粕、野菜麹の旨みが溶け合ったキーマカレーに北越後産の米粉仕立てのベシャメルソースを重ねた、発酵&地元の食尽くしのドリア。

ビジュアルとおいしさ、そこに温玉を割るときのわくわく感が添えられた欲張りな一品だ。
酒粕チーズケーキや甘酒パンナコッタなどスイーツも発酵オンパレード。注目したいのが「発酵あんと甘酒ホイップの求肥大福御膳」。砂糖を使わない発酵あんと甘酒入りホイップを、自分で求肥に包んで食べるという、かつてない体験型発酵スイーツだ。

オリジナルのクラフトコーラや、オリジナルブレンドコーヒー、浅く発酵させた茶葉を使う微発酵茶など、飲み物も充実。もちろん日本酒飲み比べやクラフトビールも提供している。

 麹や酒粕を使ったベーグルやチーズケーキはテイクアウトもできる。
麹や酒粕を使ったベーグルやチーズケーキはテイクアウトもできる。
 隣接する土蔵では音楽ライブや落語なども開催される。
隣接する土蔵では音楽ライブや落語なども開催される。
子どもの遊び場もあるので、ファミリーで発酵文化を体感できるのも魅力だ。
 敷地内にある「菊水日本酒文化研究所」は社員の案内で約1時間、じっくりと見学ができる(予約制)。
敷地内にある「菊水日本酒文化研究所」は社員の案内で約1時間、じっくりと見学ができる(予約制)。
 伝統技術の継承を目的に付加価値の高い酒を手掛ける「節五郎蔵」と、酒器などの展示室、莫大な資料をそろえる文献資料室を備える施設で、発酵文化を担う日本酒の奥深いストーリーに浸りたい。
伝統技術の継承を目的に付加価値の高い酒を手掛ける「節五郎蔵」と、酒器などの展示室、莫大な資料をそろえる文献資料室を備える施設で、発酵文化を担う日本酒の奥深いストーリーに浸りたい。
ニール
『cushu手帖』『新潟発R』編集長
高橋真理子
cushu.jp
n-hatsu-r.com