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コラム 2021.12.27

相性よし! 新潟の郷土料理と新潟清酒

 

〈郷土料理〉の定義は難しい。

日々食べている家庭のおかずとの、はっきりとした境界線がないからだ。

「これって郷土料理?」と迷うことも多々ある。

以前、「本間文庫にいがた食の図書館」の蔵書の主である食文化研究家の本間伸夫先生に、「郷土料理とは何ですか?」と質問したことがある。

本間先生によれば――

「基本的にはその風土で得られる食材を使って作られ、長期にわたりその地域の人々に支持され、伝承されてきた料理のうち、特徴的であるものです。新潟を代表するものとしては、〈のっぺ〉や村上の〈鮭料理〉、上越地方の〈笹ずし〉、中越地方の〈煮菜(にな)〉などがあります」

 

「長年地域で愛され伝承されてきた」といえば、県内各地にある地酒も同じだ。郷土料理と新潟清酒の相性がよいのは当然のことだと、再認識した。

 

特に年末年始には、令和になっても新潟では〈のっぺ〉や〈切り干し大根〉を大量につくる家庭は少なくない。新潟市の本町市場は貝柱や干ししいたけ、干し大根、里いもなどの材料を買い求める人でにぎわっている。年末年始は郷土料理を最も意識するシーズンでもある。

ということで、今回は新潟清酒にさまざまな形で関わる方たちに、郷土料理と新潟清酒の楽しみ方を聞いてみた。

 

年末年始の定番と合わせるなら

代表的な〈のっぺ〉をあげたのは、新潟市中央区東堀通りにある老舗酒屋「池乗酒店」の池乗真巳さんだ。真巳さんは新潟清酒「金の達人」の資格を持つ。

「県内の地酒は上越・中越・下越で違った特徴があるといわれています。自然環境の違いによって生まれたその地の労働環境に合った味わいの料理と、その料理と相性のよい味わいの酒が好まれてきたようです」。例えば上越地方では濃い味付けの料理が好まれ、それに負けない旨味のある酒が比較的多い。

「そう考えると〈のっぺ〉も地域によって違いますよね」と池乗さん。

県内各地域の〈のっぺ〉。上越(右)・中越(上)・下越(左)。上越では最後にくずをかく(片栗粉でかためる)のが特徴

 

池乗家の〈のっぺ〉について、奥さんの陽子さんに聞いた。

「だしは貝柱と干ししいたけでとります。里いも、にんじん、ごぼう、竹の子、こんにゃく、れんこん、かまぼこ、鮭が入り、最後にいくらをのせます。どちらかというと汁っぽいですね。夫が嫌いなので、ギンナンとゆり根、クワイは入れません(笑)」

新潟市の〈のっぺ〉(『にいがたのおかず』〈開港舎〉より)。池乗家の〈のっぺ〉はこれに近い

池乗家では、〈のっぺ〉に合わせる地酒は「年末に作って正月に初めて食べるので、新年をいい酒で迎えたいという思いもあり、毎年お神酒に石本酒造の『越乃寒梅 大吟醸 超特撰』をあげ、その酒とともに〈のっぺ〉を食べます」と真巳さん。

 

「だしで味わうので、香りや味が主張しすぎない大吟醸酒が合いますね」と陽子さん。料理も酒も“冷や”で味わうそうだ。

老舗酒屋として古町地区の酒文化を支える池乗真巳さん、陽子さん夫妻

もう一つの年末の定番、「切り干し大根」をあげたのは、利き酒師の資格を持ち、新潟清酒名誉大使でもある料理研究家の中島有香さん。

「パリパリとした食感が後を引く〈切り干し大根〉。作り手によって切り方や甘辛さの加減が違うところも面白いですよね」。大阪市出身で結婚を機に新潟に移住した中島さんならではの、客観的な郷土料理評が興味深い。

この料理と合う地酒は「人肌よりほんの少しだけ熱めに温めた、辛口の純米吟醸との相性がとても良いですね。ゆっくり丁寧に飲みたいときにぴったりの組み合わせだと思います」と中島さん。話を聞いているだけで、試してみたくなる。

 

広義の郷土料理と合わせるなら

夫妻ともに新潟清酒「金の達人」の資格を持ち、ご自宅でも新潟清酒と料理との相性を日々勉強と称し(笑)楽しんでいるという渡辺英雄さんと雪紀子さんは、秋から冬にかけての新潟の食材と合う地酒を提案してくれた。

風土の恵みである旬の食材を使った料理も、郷土料理の一つといえるだろう。

「五泉市村松の〈ギンナン〉と、金鵄盃酒造の『越後杜氏・辛口』のお燗は、秋から冬に手軽に楽しめる組み合わせです」。名刹・慈光寺近く、「黄金の里」として知られるギンナン産地の恵みを地酒とともに楽しみたい。

 

次に紹介してくれたのが県北の城下町,村上市の組み合わせ。

「〈鮭の焼き漬け〉と、後味すっきりなら大洋酒造の『大洋盛 純米吟醸』、味わいを深めるなら宮尾酒造の『〆張鶴 しぼりたて生酒』がおすすめです」

村上市にある2つの酒蔵のお酒を、同じ料理で味わって違いを確かめてみるのも面白そうだ。

村上市の割烹や料理店では、三面川に鮭が遡上する晩秋には、焼き漬けも含めたさまざまな鮭料理が味わえる

3番目に紹介してくれたのが、県産ブランド豚を使って自分で生ハムを仕込むことができる越後川口生ハム塾の〈生ハム〉との組み合わせ。

「長岡市・越後川口の生ハムと、長岡市の恩田酒造『舞鶴鼓88』。生ハムの旨味と塩味に、濃醇な酒質が溶け合います」。写真のグラスに入っている角切りは、歯応えも楽しめる。

88%精米という異色の新潟清酒を生ハムと合わせるとは、さすが“金達ご夫妻”。

越後川口生ハム塾は20221月から「みんなのハム」の屋号で、生ハム製造や販売を開始する。生ハムは乾燥熟成の工程を経るため、販売開始は23年1月頃の予定だが、加熱したハムやソーセージ、リエットは22年から販売するとのこと。

新潟県産の材料で作るこだわりのハムやソーセージ、リエットと相性のよい新潟清酒は何か、楽しみながら探ってみたい。

生ハム塾で生ハムづくりを体験した渡辺英雄さん、雪紀子さん夫妻

 

ラストは、新潟を代表する冬の食材を使った洋風料理と地酒の組み合わせ。

提案してくれたのは日本酒文化を世界に発信する「Niigata Sake LOVERS」代表のデュケット智美さん。

「〈マダラの白子のムニエル〉と、『かたふね』の『はなじかん』がすごく相性がいい!」と絶賛。「かたふね」でおなじみの上越市の竹田酒造店2019年に、10年ぶりの年間商品として発売した「はなじかん」は、貴腐ワインのような甘酸っぱい清酒。

「白子の濃厚さを、お酒の甘味が引き上げてくれます。さらにバターとバルサミコ酢が間に入ることで、甘味と旨味と酸のバランスが絶妙な、新しい味がふくらみます」。これこそが、マリアージュによって生まれる「第3の味わい」。味わって、確かめねば!

〈白子のムニエル〉と「はなじかん」のマリアージュを楽しんで

年末年始はもちろんのこと、四季折々に登場する新潟の食材を使った郷土料理やアレンジ料理とともに、新潟清酒を堪能しよう。

 

写真協力/割烹善蔵、越後川口生ハム塾、燕三条イタリアンBit新潟店、渡辺英雄、鈴木希望

 

                               株式会社ニール

                       『本間文庫にいがた食の図書館』運営

                         『cushu手帖』『新潟発R』編集長

                                   高橋真理子