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コラム 2022.11.30

燗酒(かんざけ)のススメ

燗酒コンテストから知る、燗酒の現状

日本酒の大きな特徴である温めて飲んだときのおいしさを評価する品評会、第14回「全国燗酒コンテスト」の審査結果が、202286日に発表された。

夏に燗酒と思うが、燗酒が恋しくなる季節を前に、いち早く今年の秋から冬に燗酒で楽しんでほしい商品を紹介する、という意味合いもこのコンテストにはある。

日本酒を温めて飲むという食文化は平安時代の記録に残り、江戸時代には燗で飲むのが主流だったとも伝わる。

菊水日本酒文化研究所所蔵の燗鍋。同様の燗鍋は、室町時代後期、16世紀半ばに生まれた『酒飯論絵巻(しゅはんろんえまき)』にも登場。炭火に五徳を置き、そこにのせて直火で温めていたことが描かれている。

 

長い歴史をもつ燗をつける文化だが、日本酒通はさておき、燗酒は少しハードルが高いと感じる人が多いのも事実だ。

40年ほど前の吟醸酒や生酒のブームにより、日本酒の入り口として、フレッシュなお酒を冷やして飲むことが常識になっている(いた?)こともその理由の一つだろう。

同時に燗酒に対するさまざまな誤解も生じていたため、専門機関による燗酒の酒質分析が始まり、その流れから2009年に第1回「燗酒コンテスト」が開催された。

開催当初、部門はなかったが、13年から「お値打ちぬる燗部門(4045℃)」「お値打ち熱燗部門(5055℃)」「極上燗酒部門(4045℃)」の3部門に分かれ、さらに15年からは現在と同じ4部門(お値打ちぬる燗、お値打ち熱燗、プレミアム燗酒、特殊ぬる燗)に。

特殊ぬる燗部門は、にごり酒や古酒などの特殊な酒のぬる燗が対象だ。燗酒をより幅広く楽しんでもらおうという主催者の思いと、飲み手の間でも燗酒の楽しみ方の幅が広がっていることの表れでもあるのだろう。

 

燗をすることで旨味が増したり、違ったおいしさが出てきたり、食べ物の種類によっては、相性もよくなる。

燗酒の楽しみ方を知り、この冬は家庭やお店で試してみよう。

燗酒の呼び名と燗をつける方法

最初に基本をおさえておこう。

燗酒は温度により、昔ながらの呼び名がある。

日本酒造組合中央会公式サイトでは、「日本酒を楽しむ」一つの方法として温めて飲むことを紹介している。

一般的に燗酒には口が広い平盃が向いているといわれる。

 

日本酒の温度帯は大きく分けて、温めて飲む「燗酒」、冷やして飲む「冷酒(れいしゅ)」、冷やすことも温めることもしない「冷や酒(ひやざけ)」「常温(じょおん)」の3つに分かれるという。「冷や酒」=「常温」というのは意外だ。冷酒と冷や酒は混同されがちだが、別物であることは知っておきたい。

 

燗酒の呼び名は以下の通り。

ほぼ30℃ 日向燗(ひなたかん)

ほぼ35℃ 人肌燗(ひとはだかん)

ほぼ40℃ ぬる燗(ぬるかん)

ほぼ45℃ 上燗(じょうかん)

ほぼ50℃ 熱燗(あつかん)

ほぼ55℃ 飛びきり燗(とびきりかん)

お燗する方法として最も一般的でおすすめとされるのが湯煎(ゆせん)方式。

やかんや鍋などに徳利が8分目くらいまで浸る量の湯を沸かし、沸騰したら火を止めて、徳利を入れる。希望の温度になるまで浸しておく。

この時に欠かせないのが、温度計。

こちらは「おかんメーター」。複数社からさまざまな酒燗計が出ているのでチェックしてみよう。

カップ酒や1合ボトルの蓋を開けて、湯煎するのもカンタンでおすすめ。

 

もっとお手軽なのが電子レンジでチン!燗。

ある酒蔵を長期で取材させていただいていたとき、ベテラン杜氏さんは、一年を通してレンチン燗のぬる燗2合が晩酌酒だと話していた。つまみは季節の野菜のお浸しなど、いたってシンプルなものを合わせていたそうだ。これからの季節なら冬菜のお浸しといったところだろうか……。

電子レンジで燗する場合、徳利は丸い陶器がおすすめ。ムラができないようにターンテーブルの端に置いたり、燗した後にマドラーでかき混ぜるなど、一工夫でよりおいしくなる。カップ酒や1合徳利もレンチン燗ができる。

 

最後に紹介するのが「蒸し燗」。

数年前に『新潟発R』でぬる燗特集をした際、食文化研究家の手島真記子さんの燗酒講座で体験した。

ぬる燗特集を掲載した『新潟発R』2016冬・通巻2号(左)と『cushu手帖2014秋冬号』(右)

『新潟発R』ぬる燗特集の扉

 

このときは3種類(純米吟醸酒、純米酒、特別純米酒)を、それぞれ10℃、45℃の湯煎燗、45℃の蒸し燗にして、香りと味の違いを楽しんだ。蒸し燗のやさしいふくらみのある燗の味わいは、今でも鮮明に覚えている。同じ酒でも温度や燗のつけ方で味が変わることも実感した。

普通の鍋と百均で売っている蒸しプレートでも簡単にできるので、ゲーム感覚で、同じ酒をさまざまな燗のつけ方で利き酒したり、温度を変えたときの味の違いを楽しみ、自分のお気に入りの〈燗酒〉を探してみよう。

にごり酒の燗酒については、嗜好品なので意見は分かれるところ。しかしながら、「にごり酒の燗酒でしか味わえない、極上の旨さに出合える瞬間がある」という声もよく聞く。

また、日本酒造組合中央会のサイトでは、にごり酒の濃厚さが洋食のソースのような役割を果たし、カキフライなどの揚げ物との相性がよいとのこと。タイ料理やベトナム料理などのスパイシーな料理とも合うということなので、試してみたい。

お燗生活の強い味方、燗つけグッズ

燗をつける道具として昔からおなじみなのが、取っ手を鍋の縁にかけて燗をする「チロリ」。銅や錫、アルミ製などがある。

こちらはぽんしゅ館クラフトマンシップで販売している新光堂(燕市)の酒器「雪月花」。右の2つは純銅、内側に錫をメッキしたチロリ。

緑川酒造(魚沼市)ではオリジナルのチロリを開発。取り引きのある酒販店などで販売している。

酒燗器とチロリがセットなったものや、酒燗器と徳利が一体となったものもある。食卓に置いておくと、いつでも燗がつけられて便利だ。新潟のものづくりの中心地、燕や三条を中心に、県内でも伝統技術や最新技術を生かしたさまざまな燗グッズが作られている。

ツインバードの酒燗器ふるさと納税品にもなっている。

冷めない食器で注目されたメタル丼の神田(燕市)では同じ技術を用いた徳利とぐい呑みも開発。お気に入りの温度を保ってくれるので、会話を楽しみながらゆっくりと、ちびちびと燗酒を楽しみたい人にはおすすめだ。

昔は囲炉裏の灰に尻尾の部分をさして、酒を燗していたという民芸品「ハト燗器」もある。田才酒店(新潟市)では、トキの刻印を押したオリジナルの「とき燗器」を販売している。

グッズ、つけ方、合わせる食べ物――。

燗酒ワールドの扉を開ければ、新潟清酒のおいしさの幅がさらに広がること、間違いなしだ。

                             

cushu手帖』『新潟発R』編集長

本間文庫にいがた食の図書館」運営

         株式会社ニール

高橋真理子