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コラム 2021.09.25

にいがた酒旅のススメ〈佐渡市編〉

新潟港から佐渡の玄関口・両津港まで、カーフェリーで約2時間30分。ジェットフォイルなら約1時間で、日本海側最大の島、佐渡に着く。

280㎞の海岸線、東京23区や淡路島の約1.5倍の面積をもつこの島には、5つの酒蔵が点在している。「点在」という言葉がぴったりなほど、同じ島にありながら、それぞれの土地の歴史と風土に寄り添う、個性的な地酒が醸(かも)されている。5つの酒蔵がある土地を訪ねながら、自然、歴史、文化など、佐渡の多彩な魅力に触れる旅を紹介する。

佐渡島内のアクセスはマイカーやレンタカーが便利だが、島の中央の国中平野を走るメインのバス路線「本線」と「南線」を利用して巡るのもいい。新潟交通佐渡バスでは1日〜3日の乗り放題パスも販売しているのでチェックしてみよう。

http://www.sado-bus.com/route/

 

両津港から最も近くにあるのが昭和58(1983)創業の天領盃(てんりょうはい)酒造

代表銘柄の「天領盃」とともに、「雅楽代(うたしろ)」をはじめとした新ブランドも好評で、若手経営者とスタッフが、新潟清酒の新たな味わいに挑戦している。

島内では「雅楽代」を販売する店はなく、唯一酒蔵売店で販売している。

酒蔵見学可(要予約)。

 

今年の夏には、酒蔵の敷地内に島内初のクラフトビール「t0ki brewery(トキブルワリー)」がオープンした。営業:金曜16:00 – 22:00、土・日曜・祝日12:00 – 22:00

海外でクラフトビールの文化に魅了された藤原敬弘さん(ビアパイント代表取締役)が佐渡にその文化を根付かせたいと移住し、ブルワリーをオープン。現在は全国から取り寄せたクラフトビールと、それらとのペアリングを楽しめる5種類のナッツを提供。コーラやサイダーなどのクラフトドリンクもあるので、ドライバーも楽しめる。毎週品ぞろえが替わるのも魅力だ。

年内目標で醸造所の準備を進めており、固定の味わいを造らず仕込みのたびにレシピを変え、「そのトキに飲める」クラフトビールを提供予定とのこと。

地酒とともにクラフトビールにも注目したい。

 

天領盃酒造の近くには冬に旬を迎える牡蠣の養殖が盛んな加茂湖がある。

「あきつ丸」では12月から5月にしゃぶしゃぶやフライなど牡蠣を食べ尽くせる牡蠣三昧ツアーを開催予定(要予約)。Facebook「あきつ丸」

 

佐渡のほぼ中央に位置する金井地区には、大正4年(1915)創業の加藤酒造店の製造蔵がある。

代表銘柄は「金鶴」。よい水を求めて、平成5年(1993)に製造蔵をこの地に移転した。

現在では蔵人を含めた契約農家が生産する、自然栽培米や無農薬米を使った酒造りにも力を入れている。

 

製造蔵の見学はできないが、佐渡金山へと続く沢根街道沿いにある本店では地酒を購入できる。

沢根街道沿いには江戸時代発祥といわれる沢根だんごを販売する「しまや」、佐渡の珍味・ふぐの子の粕漬の「須田嘉助商店」、いごねり(いご草を使用した郷土料理)の「早助屋」などがあるので訪ねてみたい。

 

島内で最も古くから開けた地域、史跡の里とも呼ばれる旧真野町には現在2つの酒蔵がある。

1つが、明治5年( 1872)創業の逸見酒造

代表銘柄「真稜(しんりょう)」とともに、テレビ番組をきっかけに全国にファンをもつ「至(いたる)」の銘柄でも知られている。

地下に堆積している貝殻層の影響で、新潟県内では珍しく軟水ではなく、中硬水の水を使って酒を仕込んでいる。酒蔵見学可(要予約)。

 

逸見酒造と国府川を挟んで位置する八幡(やはた)地区では、砂地を利用して伝統野菜の八幡いもを栽培。地元の「八幡・銀杏(いちょう)の会」が中心となり、地元の小学校や島内の学生たちとともに伝統野菜の復活に力を入れている。

国際佐渡観光ホテル八幡館」では宿泊の食事で八幡いもの芋煮や、八幡いもを使ったシュウマイなどを提供。

シュウマイとギョウザはホテル売店やオンラインショップでも購入できる。

 

真野地区のもう1つの酒蔵が明治25年(1892)創業の尾畑酒造

本蔵は予約なしで酒蔵見学ができ(バスの場合は要予約)、日本酒サーバーによる有料試飲なども楽しめる。

 


尾畑酒造では、本蔵から小木方面へ車で20分ほどの旧三川小学校を酒蔵として再生した「学校蔵」があり、夏季の酒造りや酒造り体験の受け入れなどを行っている。

一般見学はできないが、今後はきき酒体験プログラムなど一般参加可能なプログラムも実施していく予定とのこと。期待しよう。

 

尾畑酒造の本蔵周囲には県内唯一の五重塔がある妙宣寺や、能舞台をもつ大膳神社など、歴史スポットも多い。

移住した人たちが始めた多彩なジャンルの飲食店も増えているので、セットで楽しんでみたい。

 

ラストとなる5つ目の酒蔵は、南の小佐渡山脈の南東、本土の寺泊と海を挟んで対峙する赤泊に、明治5年(1872)に創業した北雪酒造

超音波振動を使った熟成や遠心分離機を用いた搾りなど、よりよい酒を造るための独自の手法でも注目を集めている。酒蔵見学可(要予約)。

酒蔵から歩いて、歴史ある港町・赤泊の町並みを探索してみるのもいい。

赤泊港はベニズワイガニや南蛮エビ漁でも知られ、酒蔵から車で約5分の弥吉丸直売所では朝水揚げされたベニズワイガニを隣接工場でゆで上げて販売している(12月の禁漁期は冷凍販売)。

旅の土産や、お取り寄せで楽しんでみては。

 

これまで紹介してきた風土も取り組みも違う5つの酒蔵に共通しているのは、トキと共生する酒造りを目指していること。水、米、そして人。全てにおいて島の地酒としての役割を自負し、誇りをもって1本の酒を醸している。ぜひ佐渡の四季の味覚とともに、じっくりと味わってほしい。

 

写真協力『新潟発R

撮影/スタジオママクワンカ、Studio Activist、田原澄子

 

 

cushu手帖』『新潟R』編集長

                       『本間文庫にいがた食の図書館』運営                               ニール 高橋真理子