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コラム 2022.12.27

もっと楽しもう! 新潟清酒の酒粕

日本酒を搾ったときに誕生する酒粕。

「粕」とはいっても、実は栄養満点で、元気&きれいの源であることは、周知の事実。

発酵食品の一つとしても注目され、酒粕を使ったさまざまな食品も販売されている。

佐渡のケーキ店「モンブラン」で見つけた加藤酒造店の「金鶴」の酒粕を使ったレアチーズケーキ

おいしい酒粕が身近にある幸せ

酒造りの最盛期になると、県内の酒屋や酒蔵の売店では、レジ脇などで酒粕が販売される。清酒を購入するとサービスしてくれる、なんていう嬉しいことも……。

原材料にこだわり、丁寧に造られる新潟清酒だから、それを搾った酒粕も当然おいしい。

料理研究家の中島有香さんの酒粕レシピを紹介した『発酵美人酒かすレシピ』を制作したとき、新潟市中央区にある早福酒食品店会長の早福岩男さんに、新潟清酒の酒粕について取材した。印象的だったのが「酒粕は酒のすっぴん」という言葉だ。

酒は搾ったあとにさまざまな工程(早福さん曰く「化粧」)を経るが、酒粕は何もしない。だから「酒粕を見れば酒のよさもわかる」

 

酒を搾るときに圧をかけすぎると雑味が出てしまうので、県内の酒蔵では高級酒はもちろんのこと、日常酒も搾りすぎないように仕上げている蔵が多い。だから、清酒のエキスがたっぷり残っている、フルーティーで贅沢な酒粕も多い。

ヤブタと呼ばれる圧搾機で搾ったときにできる「板粕」を見ても、そのよさがわかる。

 

身近にこんなに素晴らしい酒粕があるなんて、やっぱり新潟県民は恵まれている。

東京でイベントを開催すると、夏でも「酒粕はないの?」とよく聞かれる。東京の人たちは新潟の酒粕のおいしさを知っているのだ。

新潟に暮らす私たちは身近にある新潟清酒の酒粕を、とことん活用せねば。もったいない。

まずは郷土料理からチェック

酒粕を使った郷土料理ですぐに思い浮かぶのが、粕汁や粕漬けだろう。

さらに中越地域でよく作られる冬の郷土料理「煮菜(にな)」にも酒粕が使われる。

「うちの郷土料理」(農林水産省)より

「煮菜」とは、体菜などの漬け物の塩を抜き、油で炒めてからだしを加え、打ち豆やみそを入れて仕上げるものだ。最後に酒粕を入れて仕上げる地域(家庭による違いも)と、入れない地域があるが、酒粕好きならば絶対に入れるべし。コクが出てよりおいしくなる。雪国の保存食の知恵が生きた料理だ。

 

弊社で運営する「本間文庫にいがた食の図書館」(新潟市中央区)には、各地域のお母さんたちがまとめたレシピ本が数多くある。市販されていないので、貴重な資料だ。

その中で、酒粕を使った料理を探してみた。

カンタンで身体が温まり、日本酒にも合いそうな2品を紹介する。

 

1品目は柏崎地域の郷土料理「大根のしょっから煮」。

『にいがたのおかず』より

材料は塩引き鮭のアラと大根、酒粕、みそ。至ってシンプル。

小さく切り、さっと熱湯をかけてゆがいたアラを鍋に入れ、水を加えて骨が柔らかくなるまで煮る。鬼おろしでおろした大根とみそを加えて、約10分煮たら完成。

鬼おろしを使うのがポイントだとレシピには書かれているが、普通の大根おろしでも十分おいしい。

 

2つ目は、タラコ好きにおすすめしたい「鱈子汁」。

十日町いろり会が1988年にまとめた冊子「ふるさとの四季の味」で紹介されている。

材料は生タラコと酒粕とだし汁、塩少々。

酒粕は水を加えてすり鉢ですっておき、適当な大きさにカットしたタラコをだしで煮て、煮立ったら酒粕を入れ、塩で味を調えたら出来上がり。

塩の代わりに白だしを使っても、味が決まってよさそうだ。

粕汁よりも粕を感じる一品。スーパーや鮮魚店でタラコ入りのタラの切り身が並んでいたら、ぜひ試してほしい。

外山さん家(ち)の「べた煮」

2008年に弊社で編集させていただいた『にいがたのおかず』(開港舎)という本のレシピは、新潟県食生活改善推進委員の皆さんが、長年の食育活動の中でまとめたものだ。

県食生活改善推進委員協議会の会長を務める外山迪子(みちこ)さんは三条在住。外山さんが、長岡生まれだったお母さんの影響もあり、昔から作っているという酒粕を使った料理が「べた煮」だ。

昨年、食の図書館開館前にBSN新潟放送の「ゆうナビ」の取材で訪れた坂部友宏アナウンサーから、図書館の本で紹介されている「途絶えそうな郷土料理」を作ってほしいというリクエストを受けて、外山さんのお宅でべた煮を作ってもらった。

こちらが取材時に作っていただいたべた煮。

ちなみに、外山さんは酒粕をこのように常備し、活用していた。こうしておけば使いやすい! さすがだ。

先日、三条市の食推さんの研修会に参加させていただき、べた煮をいただいた。

酒粕をまとったごろごろとした根菜のおいしいこと! 素朴で飽きの来ない、素材のおいしさを堪能できる料理だ。

三条に暮らす方でも知らない人が多いようで、外山さんはさまざまな場で、この酒粕料理を伝えている。

中島有香さん発、酒粕調味料

新潟県酒造組合サイトの「さかすけレシピ」でもおなじみの中島有香さんは大阪出身。関西では酒粕はとても身近な存在だが、新潟では「こんなにおいしい酒粕が身近にあるのに、もっと活用しないともったいない」と嘆く(笑)。

『発酵美人酒かすレシピ』では4種類の粕汁の紹介から始まり、漬ける、混ぜる、揚げる、煮る、主食、デザートと、さまざまな料理を提案してもらった。

この本の経験から、形状的に使いにくい酒粕を、他の調味料のように毎日、気軽に使えるようにするにはどうしたらいいのか、考えてもらった。

中島さんが編み出したのが、板粕をキューブ状にカットして包んで冷凍保存しておく「キャラメルストック」と、ペースト状にして瓶に入れて冷蔵保存する「クリームストック」。

酒粕はアルコールを含むため冷凍しても固くならない。

この2種類のストックを使い分けたレシピを『みなとまち新潟発酵美人 酒粕レシピ 150g』という本にまとめさせていただいた。

この本のレシピの中で、特に驚いたのが、市販の31パックの蒸しやきそばにクリームストックを加えると、中華料理店の焼きそばのような高級感が出ること。

『みなとまち新潟発酵美人』より(キャラメルストック、クリームストック、焼きそば)

レトルトカレーに加えても、高級カレーに変身してしまう。酒粕、おそるべし。

クリームはドレッシングにしたり、キャラメルは揚げたり焼いたり……。

酒粕の可能性は無限大であることを、中島さんの料理から実感した。

 

最後に、私自身がはまっている、ずぼらな酒粕料理を紹介したい。

冷凍保存しておいた板粕を、カット(手でちぎってもよい)して、魚焼きに並べて少し焦げ目がつくくらいに焼く。

それを野菜の上にのせて、好みのドレッシングやポン酢をかけていただく。サラダだけでなく、さらに細かくしてクルトンの代わりにスープに入れたり、味噌汁に浮かべてもおいしい。

焼くことで外側はこんがり、中はしっとりするので、おいしさも増す。さまざまなドレッシングや調味料との相性を試してみたり、定番料理に加えてみるのもいい。

どの料理も酒粕が加わると、より日本酒に合うというのが、またいい。

 

撮影:高橋信幸『みなとまち新潟発酵美人』

星野謙一『にいがたのおかず』

 

 

cushu手帖』『新潟発R』編集長

本間文庫にいがた食の図書館」運営

         株式会社ニール

高橋真理子