伝統へのリスペクトを礎に新潟清酒界の『新たな星』を目指す
サケアイ

サケアイSAKEAI

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PICK UP 2025

自分が大好きな日本酒の魅力を広げていきたい。まだ日本酒を飲んだことがない人や、あまり美味しいと思ったことがない人にささるような酒を造っていきたいですね。日本酒の入り口のような存在になることを目指しています。

2025年秋、新潟県酒造組合に91番目の酒蔵が仲間入りした。株式会社サケアイが運営するSAKENOVA BREWERY(サケノヴァ ブリュワリー)だ。ブランド名の「SAKENOVA」は「SAKE」=日本酒と「NOVA」=新しい星を合わせた造語。社長の新山大地(にいやまだいち)さんは長岡技術科学大学院生時代に日本酒アプリ「Sakeai(サケアイ)」を開発。4年前に彼を取材したとき、最後にこう語っていた。「若手の参入で日本酒業界が盛り上がってほしい」。今、自らがその担い手として佐渡の地で動き始めた。

レコメンドから自らの酒造りへ

25年11月下旬、佐渡の両津港から車で約5分の天領盃酒造の一角にある醸造所を訪ねた。
この日は「その他の醸造酒(クラフトサケ)」1本目の留め仕込みの作業が行われていた。仕込みに使う掛け米がもう少しで蒸し上がる。
新山さんは20歳で日本酒アプリSakeaiを開発。味わった日本酒の記録や口コミ情報を重ねていくことで、AIが好みの日本酒をおすすめするアプリだ。20年には株式会社Sakeaiを設立。学生企業家として脚光を浴びた。
酒蔵を立ち上げた今もアプリは継続している。現在登録銘柄は約23,000種類、提携酒蔵は30数社、ユーザーは1万6,000人を超える。
アプリを活用し、日本酒定期便などのサービスも手掛けたが、新山さん自身が目指す酒を形にすることへの思いは次第に強くなっていった。

委託醸造でハイエンドな日本酒をリリース

思い描く日本酒を造るために、新山さんは委託醸造を受けてくれるパートナーを探し、茨城県の来福(らいふく)酒造に依頼した。
「最初にリリースする日本酒は高級酒と決めていたので、その考え方が合致し、柔軟に対応してくれ、何よりチャレンジングな酒蔵に造ってほしいと思っていました」と新山さん。
1716年に茨城県の筑波山麓に創業した来福酒造は、伝統を守りつつ、積極的に海外に進出し、ワインの醸造免許も取得。数年前には酒蔵の隣にカフェも開業した。
「スピード感も助かりました」と新山さんが語るように、22年11月に相談し、2か月後の23年1月には造りが始まった。
自社に精米機があり高精白の日本酒造りにも慣れていた来福酒造で、SAKENOVAブランドの「光醸(こうじょう)」とスパークリングの「星漣(せいれん)」の2本をリリース。ともに精米歩合は7%、精米には720時間をかけた。
磨き抜かれた米を使った、芳醇な中にもクリアな味わいを感じるハイエンドな日本酒だ。

天領盃酒造で修業、敷地内に蔵を設立

委託醸造と並行して、新山さんは自社醸造所の設立準備を進めた。その実現に力を貸してくれたのが天領盃酒造だった。
天領盃酒造の加登仙一社長とは新山さんが大学在学中からの知り合いで、自社ブランドをつくるなら酒造りについてもっと知らなければならないと思った新山さんが加登社長へ研修を受けさせてほしいと直談判。22年冬から23年春の造りと、その翌年の二季の酒造りを天領盃酒造で修業することになった。二季目には営業担当の小竹航平さんも参加した。
研修時に天領盃酒造の旧事務所を借り受けることが決まり、その後、新たな醸造所設立に向けた改修工事、クラウドファンディングでの資金調達などを行い、製造免許を申請。
そして25年10月、「その他の醸造酒」と「輸出用清酒」の2つの免許を取得した。26年初夏には試飲販売スペースもオープン予定だ。

製造規模約70石の酒蔵が始動

「世界の人々が日本酒を愛し、日本酒を最大限楽しめる世の中をつくる」
Sakeaiを立ち上げたときに掲げたこの目標は、現在でも変わらない。
25年10月から自社での醸造を開始。製造規模は65~70石。醸造所には1000ℓタンクが4本とSAKENOVAの文字が書かれたサーマルタンクが1本。令和7酒造年度は720mlで350本弱のクラフトサケを製造予定だ。
最初の1本は試験醸造とし、消費者の評価が高かったものや、納得のいく味わいになったものを定番化していくという。販売価格は2000~3000円、県内の酒販店を中心に販売する。
「副原料に佐渡のクロモジを使ったり、島へ移住しはちみつ作りに取り組む生産者とも交渉を進めています」と新山さん。酒米もいずれは佐渡産、将来的には全量自社で栽培したいと考えている。
「雑味が少なく、余韻はくどくなくすっと切れていく。かつ辛すぎず、日本酒に慣れていない人でも飲みやすい酒を造りたいですね」
天領盃酒造で学んだきれいな酒質造り、来福酒造で学んだ高級酒造り。それらを掛け合わせ、徹底したデータ分析と管理のもとで独自の味わいを追求していく。

先人の知恵と地酒へのリスペクト

酒造りを知れば知るほど、文化としてのすごさを感じると新山さん。
「日本がこれを生み出した歴史がすごい。何の科学的な情報もなかったはるか昔からある麹という菌を使った酒造りは、奇跡です」
地酒という概念に対しても「めちゃくちゃ大事だと思っていて、アプリを通して出会った全国の歴史ある酒蔵さんを尊敬しています。長年、地元で根強いファンに支えられている地酒は絶対に必要な存在です」。そのリスペクトがあってこそ挑戦ができると言う。
「同じ土俵に立つのではなく、別のことをやっていきたい」
ハイエンドなSAKENOVAは、ワインやギフト市場で今まで日本酒の輪に入っていなかった人に自社の酒を選んでもらう挑戦だ。クラフトサケは副原料による新しいフレーバーを造ることで今までの日本酒のイメージとは違う、日本酒を飲んだことのない人をいかに日本酒好きにさせるかへの挑戦。
「クラフトサケでは後発ですが、その中で最も酒質の高いものを造りたい。クラフトサケの高級酒という新しい市場も生み出したい」と、新山さんの野望はふくらむ。

佐渡の地の副原料を使った新時代の地酒、3種類をご紹介する。

取材・文 / 髙橋真理子