新天地での新たな酒造り。チームで挑み、乗り越えエレガントな日本酒を食卓へ
葵酒造

葵酒造AOI shuzo

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PICK UP 2026

「Untitled(アンタイトル)」シリーズとして実験的な商品をリリースした初年度。多くの方に応援いただき2季目を迎えられたことに感謝しています。今季は初年度の成果をベースに、県産米も使い、新たなシリーズを展開。葵酒造らしいお酒を、この蔵とつながる全ての人が幸せになる1本を追求していきます。

2024年12月、創業160年余りの「長稜」蔵元・高橋酒造を事業継承し、長岡の地に誕生した葵酒造。代表の青木里沙さん(写真左から2番目)、醸造責任者の阿部龍弥さん(右から2番目)、マーケティング責任者の土居将之さん(右)、里沙さんの弟で稲作責任者の青木魁人さん(左)。「葵」=AOIは4人の名字から取った名前。それが示す通り、新たな酒蔵の大きな魅力がチームワークだ。苦楽をともに、日本酒の新たな可能性を形にしていく。

初年度は“無題”で実験

代表の青木さんは三重県生まれ。国内外で金融関係の仕事に携わり、山形県の日本酒蔵で経営企画を担当。その後、日本酒愛が高じて高橋酒造を事業継承するに至った。青木さんとともに、山形の別の酒蔵で杜氏を務めていた阿部さん、青木さんと同じ酒蔵でマーケティングを担当していた土居さん、そして三重県で米を栽培していた魁人さんも長岡市へ移住。2025年1月、“チーム葵”の酒造りが始まった。
「初めての環境で、このチームで初めての酒造り。全て初めてなので『こういう味にしよう』と決めずに、さまざまな味わいのお酒を造って方向性を見つけていこうと『無題』と命名。番号で識別できるようにしました」と青木さんが「Untitled(アンタイトル)」シリーズについて説明。
リリースした7本(03は生酒薄にごりバージョンもあるので全8種類)に使用した酒米は、青木さんが使いたかった長野県産美山錦、阿部さんが使い慣れていた山形県産の出羽燦々、他に兵庫の山田錦や愛山も使用。しかしその年の買い付けが終わっていた新潟県産の酒米は使うことができなかった。

生産者への思いを形に

2季目は念願の県産米と、初年度の実績がある酒米を使用し、「Maison Aoi(メゾンアオイ)」の新たなシリーズを定番として展開している。「水縹(みはなだ)」や「白菫(しろすみれ)」など和の色の名前を冠した「Color(カラー)」シリーズと、「Farmer(ファーマー)」シリーズだ。
Farmerは「酒米を生産する農家さんとつながりができ、彼らが栽培した米を使い、名前を出して商品にしたいと思いました」と青木さん。2026年2月に「Maison Aoi Farmer 新保(しんぼ)/五百万石/燕ファーム」と「Maison Aoi Farmer 大川戸(おおかわど)/越淡麗/大川戸農業生産組合」が出荷された。今後、県外の生産者とのつながりも商品化していく予定だ。

低精白でエレガントなお酒

一年間実験的に商品をリリースし、蔵を立ち上げるときから思い描いていた「エレガントなお酒」という方向性に間違いはなかったと青木さんは言う。「凛とした味わいをもち、品のある香りがあって、お米のよさも活かしたものを造りたいですね」
農業もやりながら酒造りをしていくことを目指す葵酒造では、米の旨みを活かすため、低精白の商品も初年度に試した。製造責任者の阿部さんは山形では高精白の酒造りを専門としていたので、今までにない挑戦だった。魁人さんが三重県で家族のために栽培していたコシヒカリを特別に使用し、80%精米で使用した「Untitled06」は「口当たりがきれいで引っかかりがなく、ふくらみと奥行きも表現できたお酒でした」と阿部さん。
青木さんも「自分たちの方向性の一つとして、低精白でありながらエレガントなお酒も造りたい」と話す。

チームで、酒蔵として目指す姿を追う

マーケティング責任者の土居さんは海外経験を生かし、輸出も担当。台湾や香港、オーストラリアにはすでに輸出を開始し、マレーシア、シンガポールへも出荷が決まっているほか、韓国や米国、カナダなども検討中だ。今後はヨーロッパも視野に入れている。「今までとは違った角度から、葵酒造のお酒の価値を国内外へ伝えていきたいですね。海外では日本酒ブームと言われていても、まだまだ本当のよさは伝わっていないと思っています」と土居さん。
製造は阿部さんを中心に、冬季は酒米生産者も参加。「実家は農家ではなかったのですが、彼は小さいころから植物や動物が好きで、突然変異的に農業をやっている」と姉の青木さんが言う弟の魁人さんも冬は蔵人として働く。「酒造りをしていると、酒を造りやすい米というのがよくわかります。だから、自分でもそういう米を栽培したいですね」と魁人さん。酒造りに関わることで、飲み手と直接つながれることも楽しみだと言う。
移住組の4人のほかにも、“チーム葵”にはデザインを監修する建築家の佐野文彦さんや、高橋酒造で働いていた蔵を熟知するスタッフなど多彩なメンバーがそろう。そのサポートと地元の人たちの温かさが、青木さんのパワーの源になっているのだろう。

時間をかけてじっくり飲んでほしい

初年度に7種類をリリースしてみて、製造責任者の阿部さんは「僕はもともと酸味を軸に酒質設計しているのですが、そのあたりが葵酒造らしさにつながっていることを確かめられました。これが方向性として一つ決まったことですね。抽象的にいえばエレガントさを求めていますが、まだ理想の味には至っていません」と手厳しい。
酒造りがない夏場には全国の酒蔵を回って情報を収集し、米の蒸かしを午後に変更するなど、新たな酒造りの手法も試す阿部さん。製造責任者として、飲み手へのメッセージをいただいた。
「葵酒造のお酒は、一口目にすごくインパクトがあるというお酒ではないと思っています。開けてから変化を楽しんでほしい。グラスに入れてゆっくり飲むと、少しずつ開いて心地よい余韻が残る。さらに開栓してから2日目、3日目、1週間くらいかけて飲んでもらうと、味わいが崩れずに、ゆっくりよい方向に変化していくところも楽しんでもらえると思います。焦らず、じっくり飲んでみてください」
1本を丁寧にじっくりと味わいたい、葵酒造の3種類のお酒をご紹介しよう。

取材・文 / 髙橋真理子