確実に美味しいものを造る努力 新潟利き酒ランキング58ヶ月連続1位の人気酒造『越後鶴亀』
サンプル酒造

越後鶴亀ECHIGO TSURUKAME

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PICK UP 2022

新しい味へ常に挑戦

蔵の歴史と趣を感じさせる越後鶴亀の外観

新潟市の中心部から車で1時間。角田山の山麓に広がる田園風景の中に、新潟駅や越後湯沢駅にある『ぽんしゅ館』で選ばれる人気酒造『越後鶴亀』がある。

ハレの日に選ばれる鶴亀

越後鶴亀「オリジナルワイングラス」鶴亀の文字で注がれた量が分かる仕様

越後のお酒ミュージアムとして県内外の愛飲家に人気のぽんしゅ館。『越後鶴亀』はその新潟店で利き酒人気銘柄ランキング1位を連続58ヶ月も記録した。
「まず銘がいいでしょう。どこの酒かわかりやすく覚えやすい。それになんといってもおめでたい商標です」と、営業部長の松島智洋さんは人気の秘密を語り始めた。
人々に喜ばれる美味しい酒造りを目指して1890年に創業、わかりやすく、おめでたい商標をと「鶴亀」という名を冠したという。
東京芸術大学に学んだ5代目の、色彩心理学を生かしたオリエンタルなラベルデザインとも相まって、四季折々のハレの日に選ばれ、宮中晩餐会などいろいろな記念酒を皇室に献上してきた。
しかし人気の理由はなんといっても美味しさ。松島さんに話を聞いた。

「越後鶴亀」を語る1本

ぽんしゅ館で人気銘柄ランキング1位に輝いているのは『越後鶴亀 純米酒』。
「今の食事に合わせるには酸が必要。食中酒としての位置づけで造っています」 と部長が語るように、軽快でなめらかな口当たり、確かな旨みがありながら酸度1.6と高めゆえか、後味のキレが良く料理を選ばない。
コメの上品な旨みを引き出すために、低温発酵でコメを溶かしすぎない仕込みを行っているという。 小仕込みで伝統的な造りにこだわりつつも、現代の食事情をしっかり分析していることが勝因とも言える。
『ワイングラスでおいしい日本酒アワード』で2013年、2014年と金賞を受賞した他、多くの賞に輝き「越後鶴亀」を語る1本になっている。

攻めの姿勢が美味しいお酒を生む

越後鶴亀では毎年1本、「チャレンジ仕込み」がある。造り手に探究心なくして発展なしという考えからだ。
「社長はいつも、確実に美味しいものを造ろうと言われます。美味しく造る心構えは、できたての酒をフレッシュローテーションで出すことです。
普通、1年、2年寝かして出荷する生酛を、絞った2日後には瓶詰め。じつはこれが大人気」
と話すのは杜氏の横田伸幸さん。国家資格である1級酒造技能士検定を首席で合格した頼れる社員だ。社長からチャレンジ仕込みを課題にもらって以来、新潟では希少な造りに挑戦している。
その一つがワイン酵母の日本酒。開発に3年を要したという。
「酵母選びが大変でした。星の数ほどある中からコメに合う酵母を探し、見つかって仕込んでもアルコール度が上がらない。難しかったです」
ワイン酵母の日本酒を造っているのは、日本酒蔵のわずか1%というのも事実。しかし苦労の甲斐あって、1年分が3日間で完売したという。開発者冥利に尽きる結果と言えるだろう。
「社長は『日本酒もかっこよく飲もう』と言って、ロゴ入りのワイングラスも作ることになりました。ライトな感じの日本酒はワイングラスに似合い、和洋折衷の雰囲気も好評の要因だったようです」
当初、県内のみの試験販売だったが、売れ行き好調につき2016年から全国販売されている。

目標とする酒質を具現化する「越弌」ブランド

国家資格「1級酒造技能士」を首席卒業した杜氏の横田氏

杜氏自ら栽培した五百万石を中心に他県の酒米も積極的に使用し目標とする酒質を具現化。米のポテンシャルを最大限に引き出しつつ「クリアで瑞々しい味」を目指しています。無濾過、中取り原酒で上槽の翌日に瓶詰め、瓶火入れで仕上げることにより、生酒に近いフレッシュ感を再現。新しい形の新潟淡麗を表現しました。常にトレンドを意識しつつ蔵人達が今本当に飲みたいお酒を提供したいと考えてます。

新感覚のラベルで世界へ発信

象形文字でデザインした新ロゴマークは蔵内会議室の扉にも

また鶴と亀の象形文字をデザインした新しいロゴマークを制作、『日本タイポグラフィ年鑑2014』に入選した。
このロゴを「季節のお酒シリーズ」のラベルに使うと、『日本パッケージデザイン大賞 2015』アルコール飲料部門 で金賞を受賞。
さらに『越後鶴亀』最高峰の『越王(こしわ)純米大吟醸』のラベルにも採用したところ、日本一美味しい市販酒を選ぶ利き酒イベント『SAKE COMPETITION』の2017年大会にて、その年に新設されたラベルデザイン部門で1位に輝いた。
出品数286点中、審査員満場一致での1位採決だったという。 この酒は兵庫特A地区産山田錦を使い、香り重視ではなく味を追求した純米大吟醸。
繊細なタッチ、柔らかい甘みと瑞々しい酸で世界に誇れる酒質を実現。世界に通じる象形文字の採用も、時代を読む確かな眼と言える。

売れるからお酒は美味しくなる

2018年のラインナップがずらりと並ぶ

美味しい酒のためには設備も大事、と導入したパストライザーは、生酛を冷やしてワイングラスで飲めるレベルに引き上げた。
美味しい酒を造るという小林社長の方針で気づいたのが、売ることで酒が美味しくなるという事実。「美味しいお酒だから売れる。フレッシュローテンションの理論上、売れるから酒は美味しくなるということです」と松島部長。
ここまで話を聞いて感じたのは、マイナス発進はもはや過去。2011年以降の快進撃をたどれば、むしろ原動力に変えているともとれる。
そんな蔵の情熱が市場に伝わって、新潟駅ぽんしゅ館の『越後鶴亀』コーナーは賑わっているのだろう。以下は蔵元お勧めのお酒。

取材/金関亜紀・文/八田信江