北越の小京都で生まれた一見意味不明のアルファベットライン  マスカガミに聞く誕生秘話
マスカガミ

マスカガミMASUKAGAMI

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PICK UP 2024

2015年から発売の萬寿鏡アルファベットラインは、お陰さまで発売と同時にほぼ完売となっています。そこで、酒の陣のために一部をキープし、持参いたします。初めての方にもお試しいただけたら嬉しいです。

5代目当主の中野壽夫蔵元

マスカガミの蔵は「北越の小京都」といわれ、歴史情緒あふれる加茂市にある。東に栗ヶ岳、西には弥彦山を望む風光明媚な地で、町の中心を加茂川が流れ、やがて信濃川に合流する。
そんな加茂川べりで1892年に創業し、現当主は5代目となる。

淡麗でありながら旨みのある風味

近代設備も導入して品質を安定化

主要銘柄『萬寿鏡(ますかがみ)』の名は、万葉集などの和歌に由来。おめでたい文字を当てて命名されたという。
「長年、当り前のように使ってきましたが、初めて目にしたら何と読むかわからないですよね。マンジュキョウなんて言われたりします」
と中野壽夫蔵元は、創業者が恨めしいと笑った。 栗ヶ岳水系の上水道を仕込み水にする酒は、基本的には淡麗旨口。淡麗でありながら旨みのある飲み飽きしない風味を持つ。

全製品の平均精米歩合は約55%

もうすぐ作りが始まる頃

「手間がかかり、お金がかかる大吟醸クラスのお酒が美味しいのは当たり前。毎日の晩酌用の普通酒が評価される蔵でありたい」という考えで、酒造りをしていると中野さんはいう。 その現れが精米歩合。
「良質な酒を醸すには米を惜しげもなく磨くこと」を目標に、全製品の平均精米歩合はなんと約55%。「定番酒にこそ酒蔵の誠意が現れるもの」と、一番低価格な普通酒『清酒萬寿鏡』でさえ精米歩合60%となっている。
全国の平均が67.3%、酒どころ新潟県の平均が58.2%であることからも、いかに良酒造りを目指しているかがわかる。

『アルファベットライン』がヒット

甕酒

また、甕に詰めた本醸造酒『甕覗(かめのぞき)』は、4代目の遊び心から商品化され、発売以来ロングヒットとなっている。
しかしここ数年、注目されているのは新シリーズのアルファベットラインだ。発売すると次々にすぐに完売してしまうという。
「ロットが小さいこともありますが、酒らしからぬ名前とラベルデザインがよかったのではないか」と蔵元は分析する。
『F40』とか『J55』といったアルファベットと数字の組み合わせは、一見意味不明。だが、わかってしまうととてもわかりやすいネーミングなのだ。
「Fは普通酒のF、Jは純米のJなんですよ。次に並ぶ数字は精米歩合。40は40%に、55は55%にコメを磨いているということ。単純でしょ。
車やバイクの型番は、それを見たら排気量がわかるじゃないですか。大吟醸だの特別本醸造だの、理解しにくい表現じゃなくて商品内容をストレートに表したネーミングなんです」

サクセスストーリーは災いから始まった

話題のアルファベットライン

『F40』から始まったアルファベットラインは、『F50』『J50G』『J55Yamahai』『J55Sokujo』『F60』と続き、「S30」を2017年末に発売した。
名前から察っせられる通り精米歩合30%ということで大吟醸、磨きに磨いた大吟醸ということになる。それゆえ、「S」はシュプリーム=至高のS、これ以上はない「至高」な1本だ。
開発は次々にヒットを飛ばし、サクセスストーリーを展開中だが、その発端は思わぬアクシデントだった。
「越淡麗を近隣の農家に契約栽培してもらっているのですが、その1軒が乾燥機のダイヤル操作ミスで、水分過多のコメにしてしまったんです。大吟醸に使おうと思っていたのですが、このコメが検査で等級外になってしまいました。
契約栽培は全量買い取りが原則ですが、こうしたアクシデントの場合は買う義務はないのです。 とはいえ、長いお付き合い。心情的にはなんとかしてやりたい。
等級外米は使っても普通酒しか名乗れませんが、金額的に折り合いがついたので引き取りました」
と、蔵元は2014年を振り返った。 ここからが普通酒にこだわってきた中野さんの真骨頂。この越淡麗を40%に磨いて普通酒にしたのだ。
水分過多はコメを磨く時に割れにくいので、このアクシデントはいわば条件のいい規格外。災いを福に転じてしまったわけだ。

ネーミングが興味のきっかけに

次にこの自信作をどう流通に乗せるかだ。
「ネーミングで勝負することにしたのです。自分のクルマ好きが幸いしました。F40と表記して『エフヨンマル』と読んでもらう。普通酒で精米歩合40%は、ある意味、業界でも衝撃だったようです」
果たしてこの勝負は吉と出た。2月に仕込んで11月に発売、3カ月間で用意した量が完売したという。
こうして好調なスタートを切ったアルファベットラインは、続く『F60』も1年分が半年でなくなり、『F50』は2カ月で売り切れ、『J55Yamahai』は発売と同時に売り切れた。
翌年からは『F40』も通常通り等級米使用で、11月に発売。やはり短期間で売り切れてしまう状況だという。

もはや量的競争の時代ではない

これからは高額商品を手がけたいと中野さんは展望を語った。
「もはや量的競争の時代ではありません。値段を半分にしたら2倍の量を飲んでもらえるか。それも無理でしょう。価値ある商品をそれに見合う価格で販売できるようにすることが必要です。
当社では2016年出品酒が入賞しました。同じ囲いの酒を入賞酒として4合瓶を1万円で出したら、2カ月でなくなったのです」
「日本酒は今の販売価格帯の幅を10倍ぐらいにしないと、商売として夢が描ける世界にならないと思うのです」と、蔵元は話を締めくくった。
次に蔵元お勧めの商品を紹介。

取材・文 / 伝農浩子