
今年は中止となりましたが又の日を楽しみにしております。
お酒も美味しいが、まず誰もがその人柄に口を揃える「優しくて誠実で可愛らしい蔵元さん。」上越酒造・飯野美徳会長は、柔らかな口調で話し始めた。
何しろ銘柄は『越後美人』である。そして、温かいお人柄。きっとお酒も柔らかで飲み心地がいいだろうと、飲んだことのない人にも思わせる世界がある。自分ではどんなお酒だと説明するのか尋ねると、
「よく言われるのは、優しい味、きれいな飲み口だと。多分水質に由来するところが大きいですね。それと、私がそういう酒が好きなんでしょうね」
仕込み水は、敷地内の井戸から。柔らかな軟水ではあるが、それを抜きにしても、お酒の味と造り手は、似てくるものだ、とも感じられる。
この限りなく控えめな蔵元さんが、杜氏になって最初の造りから大吟醸に取り組み、しかも優秀賞まで取ってしまったというから驚く。
平成5年、高齢だった杜氏が辞めることになり、「蔵元が杜氏を務めるのが一番確か」と周囲に説得された。杜氏の指導に加え、周囲の人たちや新潟県の試験場などに学んだり、相談したり、なんとか1年目の造りに漕ぎつけた。
ところが、年度半ばで先代が倒れ、手を離さざるを得なくなった。本格的な造りは翌年度から、さらに社長に就任もして、蔵元杜氏となったのだ。
「吟醸酒には、もちろん興味があったけれど、何年かして自信がついてから、と思っていた。ところが、試験場の先生が、最初から挑戦しろ、と」
要所は丁寧に教えてもらいながらではあったが、なにしろ、ほとんど一造り目と言っていい時。しかもサポートの蔵人には、ほぼ素人のご近所の方々も。
しかし、さすが新潟の指導体制は万全だ。諸先輩や先生の教え通り素直に造ったのがよかったのか、元々才能に恵まれていたのか。
初めて造った『越後美人 大吟醸』は、1995年の「第77回関東信越国税局酒類鑑評会」で優秀賞を受賞。「最初の受賞で、杜氏になり、酒蔵を続けていく自信がついた」という。
今まで全く違う仕事で、酒造りは未経験ですが、飯野会長のご指導の下、お酒を造ることが出来た。
これからも、しっかりと技術を学び、皆様に喜んで頂けるお酒を造ります。
その歴史の重さを感じているのか、飯野さんがいつも心に留めているのは、「古式を大切に今様を探る、心込めた酒造り」をすること。
「素人同然だった自分が、思った酒を造れるようになったのは、心配してくれた先代杜氏の紹介で、本来は入れない杜氏組合に入れてもらったこと」
研修旅行や鑑評会などにも、隔てなく一緒に学ばせてもらったことが大きいという。飯野さんの人柄ゆえかもしれないが、厳しいばかりでなく、助けてあげようという気持ちを優先した、人に余裕のあった時代なのかもしれない。
川口工場長:温度管理が出来るようになっており、四季醸造が可能です。また、酒造りで大切な麹や醪の温度管理は、パソコンやスマートフォンで見ることが出来、状況に応じた対応が素早く出来るようになりました。とは言っても、一つ一つの作業は今まで通り丁寧に取り込むことが重要だと思っています。
なぜ純米吟醸が美味しいのか、考えてみたい1本。人肌、40度ぐらいがお勧め。
「越淡麗」を100%使用し、華やかな香り、口当たりがまろやかでふくらみがあり、淡麗辛口で後味がすっきりとするお酒で、冷やしてお召し上がり頂くのがお勧め
きれいな飲み口のさらっとした味わい。優しさのある淡麗辛口、というか、強すぎない味わいで、これがこの蔵の基本的な味だという。普段飲みにお勧め。
取材・文 / 伝農浩子