LAGOON BREWERY

LAGOON BREWERY

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日本酒王国・新潟に22年ぶりに誕生した新しい酒蔵がLAGOON BREWERY。この蔵が取得した「輸出用清酒製造免許」とは、文字どおり、輸出販売用の日本酒製造のみ許された免許で、国内販売用の清酒造りは行えない。そこで同蔵では、その他醸造酒の免許を取得し、国内消費用にどぶろくを含むクラフトサケ造りも行っている。蔵の代表・田中洋介さんは、そんな蔵誕生の背景をこう話します。

22年ぶりとなる、新しい酒蔵

福島潟のほとりに誕生。

「酒蔵を造りたいというのが、本格的に動き出したのは2021年の1月。この場所を見つけてからです」
新潟市北区、春には一面に菜の花が咲き誇り、冬には数多くの白鳥が飛来することでも知られる福島潟のほとりにある空き家との出会い。
2021年8月まで、今代司酒造の社長として手腕を振るってきた田中さん。いずれは日本酒関連の事業をゼロから起こしたい。常に抱いていたこの想いに、2020年度の法改正により新設された「輸出用清酒製造免許」の存在が火をつけた。この新設免許の活用法に思いを巡らせていた、そんな矢先に見つけた蔵の候補地。
「天井は高いし、サイズ的にも希望通り。自然の中で醸せる環境も……、すごくご縁を感じて、この場所に酒蔵を造ることを決めました」
越後伝衛門が休業する、そんな噂を耳にし、杜氏を務めていた尾﨑雅博さんにコンタクトを取ったのは、それから約2週間後のこと。
「10年間、日本酒蔵に勤めていましたが、やはり技術的なところや道具の使い方など、造りには不安がありましたので」
新潟で初めての取り組み。年齢も遠くない2人が一緒に酒造りを始めるのには、そう時間がかからなかった。

同じベクトルを向く、同志の存在

SAKEと笑顔を運ぶ架空の渡り鳥

2022年8月現在、全国で輸出用清酒製造免許を取得したのは全部で6蔵。一方で、クラフトサケ造りを行う新興のマイクロ酒蔵7社が、同年6月「クラフトサケブリュワリー協会」を立ち上げた。もちろん、田中さんたちもその一員。
「協会メンバーの多くはひと周り下くらいの世代。酒の業界にどっぷりといたわけでもないから、変な業界の常識にもとらわれていない。とにかく自由な空気が溢れていて、話していて楽しいです」
協会創設の話が上がってからのスピード感の速さ、ともにいい酒を醸すための惜しげもない情報開示……、すべてのことに対して前向きな姿勢に刺激を受けているという。

自由な味わい、自由な酒造り

国内販売用に醸されているクラフトサケ。

「当初は国内向けのお酒を造りたいとは思っていませんでした」
しかし、日本で評価されていないメーカーが海外で評価されるのか。そう考えた末、別途その他醸造酒の免許を取得し、国内用のクラフトサケ造りを始めた。未知なる酒造りを始めて気がついたのは、この種の酒に対しては、ワインなどと同じようにプラス評価もしくは個性評価になっているということ。
「日本酒の場合だと、個性的な味や香りはマイナス点として評価されがちです。しかし、僕らが国内向けに出している商品は、みんながあまりやったことのない酒造りだから、単純においしいかどうかが基準になっていました」
実験的に仕込んだ地元トマトを使用したどぶろくは、飲んでみるとトマトの苦味を強く感じた。日本酒業界歴の長い田中さんとしては、あまりいい酒ではない、そう感じたそうだが……。
「試飲していただいたら、おいしいって声がたくさん寄せられて」
ビールに苦味があるのなら、ほかの酒にだって苦味があっていいはず。そんな声を聞き、日本酒では良しとしない味わいも、個性として捉えていいのではないかと考えるようになったそうです。
「味に対して、僕の中での評価軸が変わった瞬間でした」

世界に羽ばたく新しい味わい

潟から国内外へ、クラフトサケが羽ばたく

2022年6月に第1弾となる日本酒の輸出を行った。
「ヨーロッパはドイツ、アジアはシンガポールと台湾、北米はアメリカへの輸出が決まっています」
蔵を訪れた日本酒バイヤーから、個性的で美味しいからと、クラフトサケの輸出を懇願されるケースも少なくなかったそうだ。
「海外の方からすれば、日本酒もクラフトサケも米を使った醸造酒であり、同じSAKE。今後は、クラフトサケの輸出量のほうが増えてくるかもしれません」
自由な発想から生まれる味わい、クラフトサケとして、今注目を浴びている味わいは次の通り。

取材・文 / 小島岳大