米と自然を活かす『八海山』の技 郷愁と安らぎの魚沼の里
八海醸造

八海醸造HAKKAI jozo

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PICK UP 2018

魚沼の豊かな自然環境を生かした酒造りに取り組み、
食事のじゃまをしない高品質で淡麗な酒を目指します。

常務取締役製造部長兼杜氏・南雲重光さん

創業1922年。100年以上の歴史を持つことが珍しくない酒造業で、100年未満の酒蔵はまだ若いほうに入る。それでいて、老舗酒蔵のような風格と、県内では上位の出荷量を誇る揺るがぬ人気。
その一方で、古きに縛られないフットワークの軽さか、幅広い事業と海外展開でファンを驚かせ、喜ばせる。いつになっても目が離せない存在だ。

ライバルであり仲間である酒造家たちと切磋琢磨

良い麹は適切な原料処理から

1953年、国税局を退職した田中哲郎氏を指導員に迎え結成された「研醸会」に、当時、創業からまだ30年ほど、八海醸造創業者にして初代蔵元の南雲浩一氏の姿があった。
杜氏たちへの酒造り指導とともに、蔵ごとの年間計画も立て、酒造家としての経営方針や精神も説き、恐ろしいほどに厳しいと言われた田中哲郎氏。
その指導を真正面から受けて初期の時代を過ごしたことは、同社にとって、決して、影響少なからぬようだ。
米の少ない時代に磨くことを提唱し、吟醸造りを叩きこまれながら、それを学びの場と捉え、実践である、自社の酒造りの場では、普通酒中心の方針を変えずに今に至る。

機械化も進む清潔な蔵

洗米や浸漬の一連の流れの中で正確に米の水分量を図って進められる。

主力である普通酒~特別本醸造が、生産量全体の8割という。 工場のように各仕事場が機械化されて、清潔で広々とした酒蔵。ほぼ不自由のない状態まで完成しているという。
けれど、機械化が目的ではない。機械だろうと、手造りだろうと、美味しい酒のために、必要なものを揃える。 例えば、入ってすぐの洗米浸漬機。動き続ける機械の傍には、担当者がたった一人だ。要所要所で手を添える。
米の品種、その年の水分量、前回造った時の状況などから杜氏が必要な数字を割り出すが、米の状態を見ながら微調整する必要もある。機械化とはいえ決して楽な仕事ではなさそうだ。
とくに麹造りは酒造りの工程で最も重要な部署。八海醸造で最もこだわった麹造りを行っており、蔵内で1日に必要な労力の1/3が、この麹造りだけに費やされている。
四季醸造もできる設備にはなっているが、その予定はなく、酒造りは10月から5月いっぱい。機械と人間のメンテナンスのための時間を取るために、あえてオフシーズンを設けているという。

米を使いこなしてこそ思い描く酒の味に

時折、酒母の様子を見ながら暖気樽を入れる

八海山の酒造りで大きな特徴と言えるのが、使用するコメが単一ではなく、ほぼすべての酒で2種類以上を組み合わせて使用されていること。
酒造好適米では、五百万石を主軸として、(同社でいう)高級酒には美山錦、山田錦、越淡麗。一般米では、トドロキ早生をメインにこしいぶき、ゆきの精という7品種。
造る酒の品質設計に合わせて、ほぼ、すべて組み合わせて使用しているという。 麹米と掛け米で使い分けているのはよくあることだが、それに加えて、酛作り(酒母造り)、三段仕込みの初回、2回目、3回目でも変えているのだという。
組み合わせるということは、そこで起こる様々な反応を知り尽くして利用しなければならない、その必要がある、ということだ。なぜ、そこまでするのだろうか。杜氏であり、常務取締役製造部長の南雲重光さんは語る。
「新潟は淡麗な酒です。軟水~極軟水がほとんどなので、必然的にさっぱりした軽い味わい、柔らかなめらかな口当たりの酒になり、それが、新潟の食にも合う。
しかし、淡麗なだけでは、日本酒本来の味わい、旨みが薄れてしまう。そのために一般米を使うことで米の旨みを引き出す。山田錦を使うことにより柔らかさと含み香を醸す。淡麗であることのみを追求するのではないところに、日本酒の奥深さがあると思うんですよ」

判断する人の力が要

迫力ある雪室。ショップやカフェも充実

それにしても、飯米を炊くだけでも、米に合った水分量や給水時間がある。それ以上にデリケートな酒造りにおいて、数種類の米を使いこなすのは容易なのだろうか?
「そこは、当社95年間の酒造りの蓄積があります。それに私たちは、加工業の技術屋で発酵の職人ですから、それぞれの状態に合った処理の仕方を知っています。対処する腕を持っている。
どうにかして素材を使いこなす技術と知識を持っているんです。同じ米だって硬い年も柔らかい年もある、毎年違う。そちらのほうが大変です。機械化されてもその判断は人間がしなければならない。でも、それが日常なんです」
淡々と話し始めながら、次第に力が入ってしまうその言葉には、日本酒へ愛情や思いと同時に、新潟の酒を俯瞰して判断しようという思いもにじむ。
この思いが、様々な米の旨みで複雑な味、深みのある味を引き出しているのかもしれない。

日本酒を核としたテーマパーク「魚沼の里」へ

温度変化も少なく、お酒はまさに眠るように熟成されていく

わざわざ南魚沼市にある酒蔵まで来てみたいと思わせる要素が、この酒蔵にはたくさん揃っている。そのひとつが雪室。
「冬は2~3mの雪に閉ざされる不便な中で、人口も多いとはいえないけれど6万人もの人々が暮らしている。そこには知恵と工夫が詰まっている、南魚沼。
その中で工夫しながら人々が暮らしている。その知恵と文化を酒造りにも活かさない手はない。なめらかな温度変化と湿度は、酒の貯蔵、熟成に最適。何より自然エネルギーですから」
それが、2013年に完成したこの雪室のスタートだったという。雪室は少し離れているが、緑が豊かな酒蔵の周囲に飲食店やショップが点在する「魚沼の里」。
この地に訪れて、環境の素晴らしさをたくさんの人に知ってもらい、楽しんでもらうとともに、地元の活力になれたら、という思いも詰まっている。
また見学はできないが、伝統と歴史を知り技術を高める場として、第二浩和蔵もその一角にある。
南雲杜氏:様々な事業を展開していますが、いずれも、日本酒に関わる米、麹、発酵をテーマにした事業展開です。それほど、日本酒は奥深く、日本の風土や生活と密着しています。
そして、それらを運営していくのも、私たちが、永遠にお酒をつくって日常のお酒を、美味しいと言ってくれる人たちのために頑張っています。それが私たちの使命であり、責任ですから。
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取材・文 / 伝農浩子