激戦区長岡の地元で愛飲される『越乃白雁』 かつて天領だった米と良水を活かして
中川酒造

中川酒造NAKAGAWA shuzo

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PICK UP 2018

酒の陣の時期は新酒や生原酒のシーズンです。純米吟醸生原酒はちょうど酒の陣の開催日が発売開始日。毎年楽しみにいらっしゃる方もいます。今年も目玉に持って行きます。

学生生活を終えて帰ってきてから日本酒の美味しさを知ったという専務取締役の中川雅史さん。独立行政法人 酒類総合研究所で研修の後、自蔵で造りも体験した

中川酒造がある長岡市脇野町は、かつては三島郡三島町と呼ばれた地。農業、林業の一次産業とともに刃物産業、酒造業も盛んだった。いずれも大量の水を必要とする産業である。

人口7000人の町に3軒の酒蔵

「ここは水の質、量、ともに恵まれています。酒蔵は今は3軒ですが、少し前までは周辺も含めて5軒もあったんですよ」と話すのは、中川酒造の専務取締役・中川雅史さん。
長岡は今も新潟県最多の酒蔵数を誇る土地柄だが、中でも脇野町は異例。3軒に減少したとはいえ、この町の人口が7000人ほどであることを考えれば、驚きの数だ。
この地域に酒造りに適した良質の水が、豊富にあったことの証であろう。 ところで、酒造りにとっての良質な水とは、どんな水なのか。
まずは麹菌や酵母などの微生物が、活発に活動するためのカリウム、リン酸、マグネシウムが含まれていること。次に麹から酵素が溶け出すのを助け、酵素の働きを促進して発酵を助けるカルシウムなどが含まれること。
そして酒の着色の原因や香味の劣化を招く鉄やマンガンが少ないこと。さらに新潟清酒の特長である淡麗な飲み口にするには、適度な軟水であることが必要とされる。

良水がもたらした銘柄

昔から白い雁が飛来していたことから『越乃白雁』は生まれた

中川酒造は県道から1本山側の閑静な道路に面して蔵が建っている。裏手には急峻な山の斜面が迫り、その環境はいかにも山からの水が豊富であることをうかがわせる。
実際、この西山丘陵由来の水は地下10mから汲み上げられ、柔らかな井戸水は主要銘柄『越乃白雁』の仕込み水となっている。
「県道の下は湿地帯です。この沼には昔から白い雁が飛来していました。それが銘柄の名の由来です」
中川専務の話に、銘柄も酒質もこの地に湧く良水がもたらしたものであることを知った。

美しく青く透き通る神秘の水

まるでブルーハワイか、マリンブルーか、きれいに澄んだ青

創業は1888年、大火によって焼失した酒蔵から酒造株を買い受けて、酒造りが始まったという。代表取締役社長の中川吉五郎氏は、蔵元としては3代目となる。
「父は本来なら4代目なのですが、戦時中は休業していましたから、私の祖父は蔵元にはならず医者をしていました」と中川専務が解説する。
建物は「明治蔵」「大正蔵」「昭和蔵」と増築が繰り返され、迷路のような蔵内は酒造りの歴史と伝統を物語る。 この蔵の中で、貯水タンクを満たしているのは西山丘陵からの湧き水だ。
内側が白いホーロータンクの中は、なんとも神秘的な青い色をしている。中川酒造には『越乃碧(あおい)』という銘柄があるが、その味わいを彷彿と思い浮かばせる澄んだブルーだ。
もちろん、全ての酒はこの水で醸される。青く見える水の秘密は解明されているそうだが、美酒の源はあえて謎めいたままにしたい。 酒蔵にとって水は大事な財産。
「新潟らしいきれいな酒、が基本です。飲み飽きしない、淡麗辛口よりやや味があるタイプですね。この水あっての『越乃白雁』といえます」

地元に愛される酒造り

『越乃白雁 黒松』

もうひとつの財産はコメである。ここはかつて天領地であり、献上米を作っていたという土地柄。良質なコメが獲れることはいうまでもない。
『越乃白雁』には、優雅で繊細な香りの大吟醸、華やかな香りと淡麗な味わいの純米吟醸、なめらかな中にもコクのある純米コシヒカリ、そして飲み飽きしない澄んだ味わいの『越の白雁 黒松』、柔らかくきれいな飲み口の本醸造などがある。
これらはどれも、贅沢なまでにコメを磨きに磨いて造られている。しかも酒米は全て自家精米だ。レギュラークラスでさえ60%台の精米歩合。日々飲む酒の美味しさを大事にしている。
中でも圧巻は『越乃白雁 黒松』。蔵人たちも愛飲している晩酌酒だそうで、普通酒ながら精米歩合は62%。柔らかくてやや辛口タイプ、スッキリして飲み飽きしない。
「2017燗酒コンテスト」ではお値打ち熱燗部門で金賞を受賞した。 経営方針については「地元に愛される酒造り」だという。
本醸造系が主体で、出荷先は県内が80%。ほとんどが地元で消費されてしまうというが、それも納得の酒造りだ。
それではここで中川酒造お勧めの商品を紹介しよう。

取材/伝農浩子・文/八田信江