越後長岡「文化財」の蔵で醸される『長陵』 郷土の文化と歴史へのオマージュも込めて
高橋酒造

高橋酒造TAKAHASHI shuzo

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PICK UP 2018

『雪兜』シリーズは酒の陣でも人気の商品で、売り切れも出ました。なかでも純米大吟醸は青リンゴのような香りで好評です。お楽しみにどうぞ。

専務取締役で製造責任者の関口賢史さん

県内最多、16もの日本酒蔵元が集まる長岡市。それぞれに個性ある銘柄を競うが、高橋酒造では郷土の誇りを高らかに歌い上げている。

リバーサイドの文化財で醸される『長陵』

醸造蔵の看板を掲げた仕込み蔵は煉瓦壁

長岡駅から北東に1.5kmほど離れた栖吉川(すよしがわ)のほとりに、高橋酒造の蔵はある。この川は市街中心部の南東約9kmにそびえる鋸山に源を発し、日本一の長河・信濃川に注ぐ一級河川。
1613年に徳川譜代大名の牧野忠成が築城した長岡城は、現在のJR長岡駅あたりに本丸があった。城は信濃川と栖吉川が周囲を取り囲んで、自然の外郭に守られていたといわれる。
その栖吉川の左岸リバーサイドに出現する赤煉瓦の建物が、安政年間(1854~1860)創業の高橋酒造の蔵である。数ある新潟の酒蔵の中でも、大正モダンのその外観は独特の雰囲気。
高さ20mほどの煙突も煉瓦を積み上げて造られ、側面には『長陵』の文字か見られる。
「これらは大正時代に建造されたもので、2007年、国の登録有形文化財になりました。貴重な工法と、歴史的・文化的価値などが認められたものです」と、専務取締役で製造責任者の関口賢史さんが紹介してくれた。
現在も代表銘柄『長陵』をはじめとする酒は、この文化財の蔵の中で粛々と造られている。

イギリス積みで築かれた煉瓦の煙突

イギリス積みで築かれた煉瓦の煙突

蔵のシンボルともいえる煙突は一辺が1.2mで六角形、見上げる高さは20mで圧倒される。煉瓦は一段おきに向きを変えて積むイギリス積みで、フランス積みより頑丈だとか。
この煙突が新潟地震や新潟県中越地震に耐えられたのも、その工法の故だろうか。 建物は外壁からすると煉瓦を積み上げただけのように見えるが、内側はしっかりとしたコンクリート壁になっている。
したがって壁が厚く、蔵の内部は温度や湿度がきわめて安定しているという。
「酒造りにはとても有効な環境です。昔ながらの 酒造りにこだわった商品ができるのも、こうした蔵のお陰です。
際だった個性をとくに求めているわけではないが、イメージとしては優しさ。優しい味ではなくて、優しさそのものです」
と、造りの現場を指揮する関口さんは語る。この蔵の酒は柔らかく円やかな味が特長。なんだか哲学的な表現だが、甘辛を超えた酒の存在そのもののあり方をいっているようで、胸にストンと落ちた。
蔵では酒造りで大切にしていることに「健康であること」を掲げている。設備や技以前に、造り手が心身共に健やかであってこそ、優しさは醸せるのかもしれない。

「長陵」は長岡市の雅称

レンガに漆喰の白が映える窓

代表する銘柄は、まず『長陵』。これは長岡市の雅称でもある。
「若い世代は知らない人も多いけれど、昔は長岡のことを親しみを込めて長陵と呼んでいたんですよ。それに長岡出身の山本五十六の雅号でもありました」
旧・越後長岡藩士の家に生れた山本五十六は、太平洋戦争時に連合艦隊司令長官を務め、真珠湾攻撃を指揮した人物。前線視察の際、プーゲンビル島上空で戦死した。
生前は揮毫を頼まれると長岡藩の藩是「常在戦場」を好んで書いたという。 その際に記した号が長岡の別名「長陵」。
「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」は、山本の格言として有名である。

郷土へのオマージュを醸す

製造の現場には小さい蔵ならではのやりがいがあると、製造責任者の関口さん

もう一つは『八一』というブランド。新潟市生まれの歌人で書家、東洋美術史家でもある會津八一を偲んで名づけられたもの。
「地元ではあまり知られていませんが、新潟市の名誉市民であり、早稲田大学の文学部教授も務めています。高橋酒造の創業家・髙橋家の遠縁にも当たります。新潟が誇るべき文化人です」
會津八一は、西洋化の中で忘れ去られようとする日本古来の美の再評価にも取り組んだ。新潟市に「會津八一記念館」、早稲田大学構内には「會津八一記念博物館」がある。
銘酒『八一』ほか『壺中天地(こちゅうてんち)』のラベル文字は八一の書であるという。 これらに共通して感じられるのは、埋もれていく郷土の史実、文化の顕彰だろうか。
銘柄に込められた想いは郷土の誇り、郷土へのオマージュといえるだろう。

しなやかに「優しさ」を表現

伝統の酒造道具を使い丁寧に醸されている

「出荷先は地元が多いです。でも小さい蔵なので、試験的にいろいろできますから、現場は面白いですよ」と関口専務が語るように、地元で晩酌用に飲まれるレギュラー酒の生産量が大半を占めている。
しかし一方で、新しい酒造りも始まっている。 例えば『雪兜(ゆきかぶと)』というブランドはその代表。現代の若い人たちにとって日本酒は世界中の数あるお酒類のなかの一つとなっていて、選択肢は無数にある。そんな中で日本酒がもつふくよかさややさしさといった他のお酒にはない魅力や可能性を知ってほしいとの思いから生まれた商品だ。
このように地元に愛され続けてきた酒造りはそのまま継続しながら、その一方で新潟清酒の淡麗辛口だけにこだわることなく、しなやかに市場の好みに呼応する動きも見られる。これも関口専務のいう「優しさ」の表現なのだろう。
それでは蔵元自慢のお酒を紹介しよう。

取材/伝農浩子・文/八田信江