上杉謙信の時代から続く酒蔵『吉乃川』 先人の技を受け継ぎ新たなチャレンジへ
吉乃川

吉乃川YOSHINOGAWA

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PICK UP 2018

吉乃川では『杜氏の晩酌』シリーズを発売しています。本醸造、純米、吟醸がありますので好みのタイプを選んでください。

杜氏の藤野正次さん

長岡市の摂田屋地区といえば、醸造業が集まる町。酒、醤油、味噌などの蔵が集まり、どこか懐かしい佇まいを見せる。

創業は上杉謙信が活躍した戦国の世

圧巻は極彩色の鏝絵が見事な機那サフラン酒本舗の土蔵。かつては養命酒と人気を二分したサフラン入りの薬酒は、昭和初期にはハワイにまで進出したという。往時の栄華が想像される。
日本酒の有力ブランドのひとつ『吉乃川』の本社は、この摂田屋にある。ツタの絡まる大迫力の蔵は大正時代の建造で、鉄筋コンクリートの蔵の先駆けだそうだ。他の建物は近代的だが、外観に反してこの蔵の歴史は古い。
創業は上杉謙信が活躍した戦国時代の1548年。じつに470年もの歴史があり、新潟県最古の酒蔵とされる。

機械化しても自動化しない

2016年に社長に就任した峰政祐己氏は、着任時の挨拶で次のように語っている。
「蔵の規模は大きくなりましたが、『機械化はしても自動化はしない』を信条に、伝統の技に支えられた手造り大吟醸を基本とした酒造りを続けていきます。
『吉乃川』は、新潟の人にずっと飲み続けていただいているお酒です。これからも、飲み飽きしない酒、毎日飲みたい酒を造り続けることに変わりはありません」
「機械化はしても自動化はしない」という言葉は、創業家である川上家19代故川上浩司社長の言葉だ。峰政社長は、その遺志を受け継ぎ経営にあたっている。
酒蔵の激戦区である新潟県で長きに渡り業界を牽引してきた実力は、県内最多の受賞歴からも明らか。
じつに、関東信越国税局酒類鑑評会では1965年から通算67回の入賞、全国新酒鑑評会では1956年から通算 29回の金賞受賞を記録している。

受け継がれる伝説の名杜氏の技

戦国時代の1548年に創業した

こうした受賞歴の陰には、妥協を許さず酒造りに生きた職人の存在があった。昭和の名杜氏といわれた鷲頭昇一氏。
吉乃川だけでなく、酒造業界全体の発展に貢献したことが認められ、杜氏として初めて黄綬褒章を受章し、その記念に発売されたのが『極上吉乃川』である。
その名杜氏の技は現在まで脈々と受け継がれ、2017年から杜氏を務める藤野正次さんもその一人。 「当初は2~3年で帰るつもりだったのですが…」と四半世紀前を振り返る。
東京出身の藤野さんは実家が小売酒屋だった。家業を継ぐ前に酒造りを勉強したくて、18歳で吉乃川の蔵に入った。
「現場の熱気はすさまじかったです。各工程の頭を務める親方たちは、皆強いこだわりがあり、ぶつかり合いもしばしば。けれど向かうところは一つで、いい酒を造りたいという想いは強固でした」
そんな職人気質の世界に惹かれて、ついに帰れなかったという。 仕込み水には、蔵の敷地内にある井戸水を使用。この地下水は、長岡市を見下ろす東山連峰の雪解け水と雄大な信濃川の伏流水が地下でまざりあったものだという。
この仕込み水はペットボトルに詰めて販売もされている。「ミネラルを適度に含む軟水で、酒質を柔らかで淡麗な味に仕上げます。お茶やコーヒーに使っても美味しいんですよ」と、藤野さんは誇らしげに語る。

晩酌文化の復活と啓蒙を

この水があってこそ造られる飲み飽きしない酒『吉乃川』。
「新潟の人が普段に飲む酒を造りたいという想いは、これまでと変わりません。まず晩酌の酒を大事にしたい。希少性や話題性で選ばれるのではなく、いつでも飲めるけれど普通に美味しい酒。そういう定番の酒を目指します」
と、峰政社長。
そもそも吉乃川の定番晩酌酒『厳選辛口 吉乃川』は、地元の米と水を使い、地元の人に飲んでもらうために生まれた。本物志向の地酒は県外でも新潟らしさが歓迎され、首都圏1,500店の飲食店でも提供されているという。
このセオリーを地酒の定義とする吉乃川では、晩酌文化を今一度見直してもらおうと、『杜氏の晩酌』シリーズを新発売。『厳選辛口』同様に県外にも広まっていけば、晩酌文化の啓蒙になるだろう。
「社員に一番好きな酒はと質問したら、多分全員が『厳選辛口』と答えるでしょう。だってこの酒、うまくてお手頃なんです」と藤野さん。地元では「厳辛(げんから)」の愛称で親しまれているのも納得である。

農産部を立ち上げ原料米を自社生産

手仕事で醸す手造り大吟醸が基本

美味しい酒をリーズナブルに提供できるのは、大型タンク仕込みと、瓶詰め工程のオートメーション化によるところが大きいと、藤野さんは分析する。 蔵には20tの米を仕込める90klタンクがある。
1971年、これをどこよりも早く導入し、常に安定した酒質を実現した。瓶詰めは安心安全のためクリーンルームで行われている。
また、品質の良い原料米を将来にわたって確保できるようにと、2016年から農産部を立ち上げ、地元の田んぼで社員による自社生産を始めた。必要量の5~6%だが、将来は20%くらいに増やしたいという。
「米作りは次代に残さなければならない技術ですからね。自社生産によってノウハウを蓄積し、次の世代へつなげてゆくのも私たちの役目です」と藤野さん。
米作りに深く関わりながら、新潟の風土に根差した新潟の酒を造り、提供していきたいとの想いからだ。そこには新潟を代表する銘柄であり続けることへの、飽くなき挑戦魂が感じられた。
以下は蔵元がお勧めするお酒。

取材/伝農浩子・文/八田信江