今よりも未来を見据える「米百俵」の精神で 奥ゆかしくも新潟プライドを守る栃倉酒造

栃倉酒造TOCHIKURA shuzo

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PICK UP 2018

2018年も、日常飲んでいただける酒をもっと美味しくしていくこと考えて、日々前進していきたいと思っています。

常務取締役・栃倉恒哲さん

「ん、おいしい。このカテゴリーのお酒にしてはきれいすぎる」。そう思ってスペックを確認するときっと驚く。「57%磨きの本醸造」や「五百万石100%の普通酒」。
長岡市郊外の大積地区にある栃倉酒造の常務取締役・栃倉恒哲さんは、当たり前のように説明する。
「高いお酒が美味しいのは当たり前ですよね。普段飲むお酒が美味しい、そうなって初めて価値があるというか、意味があると思うんですよ」

米百表の精神を受け継ぐ

小型の仕込みタンクが並び、丁寧な小仕込みで造られていることがわかる

小泉純一郎元首相の所信表明演説でも取り上げられた「米百俵の精神」が生まれた舞台は、長岡。戊辰戦争で破れて焦土と化し、石高も減らされた長岡藩の窮状に、支藩から救援の米が贈られた。
「これでお腹が満たされる」と藩士は喜んだが、藩の大参事だった小林虎三郎が、将来の人材育成のため藩立の『国漢学校』を開設する資金に充てる。
国漢学校はその後の長岡洋学校の前身で、現在の県立長岡高校へと受け継がれて、山本五十六など数多くの秀才を輩出してきた。
1904年創業の栃倉酒造は、目先の満足ではなく先々の成長を考慮した行動を取る精神を酒造りに活かしていこうという思いから、酒銘につけた。
先を見越した選択は、たとえば純米酒の製造だった。今でこそ熱狂的なファンも少なくないが、栃倉酒造はすでに40年も前に純米酒の製造を行っていた。 そして次に考えていることは、さらに思い切った挑戦だ。

次は「全量酒米使用」の酒蔵に

純米の次は全量酒米に

「2016年の造りから、すべて酒米にしたんですよ」と栃倉さんは、淡々と語る。 吟醸系はもちろん普通酒まで、造るお酒は全て酒米使用になるというのだ。
「お酒って酒米で造られてるんじゃないの?」と思う方も多いかもしれないが、飯米に比べて酒米は高価。
そのため、低価格帯のお酒では、麹米は酒米でも掛け米に飯米を使う製法のほうが一般的と言える。特別なブランド米を除けば、飯米は酒米に比べ格段に安く仕入れられるため、製品の価格を抑えることができるからだ。
ただし、飯米には雑味の元となる要素も多いため、多めに磨くなどして、質を高める工夫をしている。この技術代は価格に反映されない。
「全量酒米で造るとなると、もう少し軽やかな酒になるだろう」という。しかし、高くつくということも確か。それに見合うほど価格を上げられるのか。そこには「新潟の常識」がある。

新潟の酒蔵の奥ゆかしさ

人間にできることは、良い麹になるように米の状態を把握し、環境をを整えてあげること

新潟の酒でまず戸惑うのが、カテゴリーが大体ひとつずれていること。清酒における現在の区別は、精米歩合と造りによるもの。
60%まで精米して吟醸造り(低温長期発酵)をしていれば、吟醸酒と名乗れるところを、新潟では吟醸とはせず価格帯でも一段下げたランクにしていることが少なくない。
「うちの酒を飲んでくれる人たちは、普通酒を毎日の晩酌にしてくれるような人たちなんですよ。それを気に入って、いつもまっすぐそれを買ってくれる。
だから、ある日突然吟醸酒になってしまったら、たとえ値段が変わらなかったとしても、敬遠してしまいかねない。その人たちに、『変わらないようでいてもっと美味しいお酒飲んでもらいたい』と思うんです」

新潟プライドを生かす方向へ

麹菌は適量を均等に広がるように

普段飲むお酒をいかに美味しく造るか、それが、ひとつの「新潟プライド」なのかもしれない。 ある意味奥ゆかしいとも言えるが、そのため逆に「普通酒なのに高い」と誤解されることもあるのだそう。
「これからは、そのこともちゃんとアピールするなり、活かしていいかないといけないでしょうね」と、 栃倉さんは、自分の使命でもあるというように語る。
栃倉常務:日本酒度等、表示成分にとらわれないで飲んだ直感で味わいを感じていただきたいお酒です。家訓である「土と心を耕せ」を基に、地元の農業(環境)を守り、酒造りを通して人間性を高め、地元社会に貢献できるよう努力しています。
日本酒にはその土地の歴史、伝統、風習などその土地の文化に深い関わりが有ります。その土地の文化を継承していけるような酒蔵でありたい思っています。
蔵元が勧めるお酒を紹介しよう。

取材・文 / 伝農浩子