和は良酒を醸し良酒は和を醸す 伝統の技で新潟淡麗の美酒をつくる『雪の幻』の蔵
朝妻酒造

朝妻酒造ASADUMA shuzo

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PICK UP 2022

これからも伝統を受け継いだ酒造りを続けていきます。

杜氏の神田大地さん

酒造りの基本は「和醸良酒」。蔵人の和をもって良酒を醸すことが、愛される新潟の酒造りに通じる。そのためには蔵人が幸せに働ける環境、体制作りが必要と蔵元は語る。

雪国の風情を名に

新潟市の西南、信濃川の支流である西川の川辺に、朝妻酒造はある。朝妻とはなんとも風情を感じさせる名前だが、主要銘柄『雪の幻』もまた雪国を連想させる幻想的な名称。
このラベルの酒を目の前にしたら、どんな味わいなのかと誰しも想像心を掻き立てられるに違いない。 朝妻酒造の創業は1909年。それほど長い歴史がある蔵ではないが、創醸以来、日本酒製造の伝統の技を守り続けてきた。
そのひとつが「生酛系」酒母での酒造り。 発酵のたねとなる酒母の立て方には「生酛系」と「速醸系」があるが、現在、酒母造りには多くの場合後者の「速醸系」が採用されている。
乳酸を添加して酒母を酸性に保ち、酵母を培養するもの。従来の生酛造りに比べて、比較的安全に醸造でき、工程に要する期間も半分ほどに短縮できるからだ。

伝統の技を守り続ける

明治末期に創業した朝妻酒造の佇まい

一方、生酛による伝統的製法は、天然の乳酸菌を利用して乳酸を生成し、酒母を酸性に導くことで、有害微生物が繁殖できない状態を整え、日本酒のアルコール発酵に必要な酵母を培養する。
速醸酛が開発される1910年までは、全ての蔵がこの方法で醸造していた。だが、生酛造りには手間や時間だけでなく、高度な管理技術を要することも事実。
朝妻酒造ではこの高度な技を要する生酛造りを伝承し、純米酒は今も生酛系酒母で造っている。 「生酛にこだわるのは、喉越しの爽やかな旨み豊かな酒になるからです」 と、杜氏の神田大地さんは説明する。
生酛造りは、期間が長く微生物がたくさん介在するので、それらが酸味や旨みとなり、バリエーション豊かな酒質になる。

目指すのは毎日飲んでも飽きない酒

全体的なお酒の味わいは淡麗辛口タイプ

朝妻酒造における現在の製造状況は、特定名称酒が60%、普通酒40%の割合。主力製品は大吟醸酒だが、蔵としてはリーズナブルな価格で毎日飲みたくなる酒が理想という。
「全体的なお酒の味わいとしては、世間でいわれている新潟の酒、淡麗辛口タイプです。毎日繰り返し飲んでも飽きない酒を目指しています」
販路は地元40%、首都圏60%だそうだ。地元の人にとっては飲み慣れた懐に優しい酒、県外の愛飲家にはこれぞ新潟を感じてもらえる酒を造れるのも、「良質の米」「清らかな水」「良いお酒を造る気候」に恵まれているからという。

和醸良酒をモットーに

蔵では和をもって丁寧に醸すことを目標に掲げる

会社のポリシーを尋ねると神田杜氏は、「人の和です。従業員が楽しく幸せに働けるから、皆様に親しんでいただける酒を造ることができると思っています」と語った。
まさしく「和醸良酒」。 和は良酒を醸し、良酒は和を醸す。和をもって醸された丁寧な酒は、飲む人たちの間にも和をもたらす、ということだろう。
「酒造りは肉体労働です。重い米袋の持ち運びもあります。蒸米をタンクまで移動する作業も容易ではない。また、1人の力ではどうにもならないことばかりです。
蔵人が一丸となって行動しなければできないから、和も生れる。その和によって良酒が醸されるのです。酒は百薬の長、十徳ありと言われています。社会にあって人間関係に疲れたときは、酒でコミュニケーションを図っていただきたいです。」
そんな蔵元がお勧めする酒を紹介しよう。

取材・文 / 小島岳大