小説にも登場する野積杜氏の里で 少数精鋭のチームで造る『越乃八豊』の蔵
越後酒造場

越後酒造場ECHIGO shuzojo

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PICK UP 2018

市場のニーズを敏感に感じ取り、時代と共に新しい分野も開拓して商品作りに反映していきたいと考えています。酒の陣はお客様のニーズに触れあえる貴重な場です。

代表取締役社長で12代目当主の森谷薫さん

きれいな酒造りに必要なことは技だけではない。製造の場が清潔であること。整理整頓はもとより、洗浄水を惜しみなく使うことも大事。

宮尾登美子の小説『蔵』にも登場する野積杜氏

越後杜氏は新潟県内の地域ごとに、三島(さんとう)杜氏、刈羽(かりわ)杜氏、頸城(くびき)杜氏の3流派に、または、三島杜氏を越路杜氏と野積(のづみ)杜氏の2つに分けて4流派とする考え方がある。
宮尾登美子の小説「蔵」に登場するのは、この野積杜氏、寺泊野積を拠点とする。 越後酒造場の蔵があるのは、まさしくその野積杜氏の里。
「この蔵の酒の味を磨き上げたのは、野積の名杜氏・青木礎(もとい)です」と、代表取締役社長で12代目当主の森谷薫さんは語る。
そして、神代の昔、出雲の国から舟で新潟に上陸した集団が越後を平定、野積に定着して酒造りを始めたと、社長は古の民話を紹介した。
出雲人たちは農業や野積海岸で漁業をしながら、冬場は酒造りをして生業とした。それがいつしか野積杜氏集団を形成したのだ、と。
前は日本海、後ろは弥彦山。海と山の間にわずかな田んぼ。冬になれば雪に明け暮れる日が続き、海は遠吠えを繰り返す。そんな厳しい自然環境が、野積を杜氏の里にしたのだともいわれている。

名杜氏から受け継いだ技で

平成28年の全国新酒鑑評会では金賞受賞

現在、越後酒造場の杜氏役を担うのは製造部課長の西島徹さん36歳。杜氏になって2期目を迎える。 出身は上越市にあった新潟県立吉川高校。
手に職をつけさせたいという親の勧めもあって醸造科に学び、2005年からはこの蔵で青木杜氏のもと、越後本流ともいえる野積流の教えを受けた。
野積流の特長は酒母造りと温度管理にあるそうだ。酒母を仕込む際に入念に櫂入れをするのは、過剰な酵母の働きを抑えるため。
そして朝晩と昼間の温度差が大きくなるように、タンクの温度を管理する。こうしてできる酒はきれいな味わいになるという。

少数精鋭のチームワーク

杜氏の西島徹さんと製造部唯一の女性蔵人・澤村明子さん

「全体的に大事にしているのは、きれいな味わいです。そのために、設備上の制約もあってのことですが、醪の日数は短めにしています。麹造りも甘くならないように注意しているんです」と西島杜氏。
森谷社長はそんな西島さんを職人気質と評価する。
「杜氏は本来、集団をまとめるのが一番の仕事。杜氏を中心にした人の和の大切さは、西島君も蔵の中で学んできたはず。ここは少数精鋭だから、自らの背中を見せつつみんなを統率してもらいたい」と、社長は期待をのぞかせる。
現在、造りは5人体制。その中にはなんと、西島杜氏と同じ吉川高校卒業の先輩もいるそうだ。唯一の女性蔵人ながら頼もしく、しかも女性目線で製造チームに貢献しているという。なんだか和やかな造りの現場を想像させられた。

「八」のように末広がりに

野積流の技を受け継ぎ基本は手造り

こうして越後酒造場では、昔から変わらない手造り主体の野積流で、酒造りが行われている。 主要銘柄は新会社設立時に誕生した『越乃八豊(はっぽう)』。八豊のいわれについては、社長が語ってくれた。
「このあたりの地名はかつて豊栄(とよさか)と呼ばれていたんです。それとこの蔵の創業時の名前が八田酒造場だったことから、『越乃八豊』の銘柄が生れました」
お客様と蔵が八のように末広がりに、共に豊かになることを願っての銘柄ともいう。
もうひとつ、創業時からの銘柄に『甘雨(かんう)』がある。
ほどよいときに降って草木を潤し育てる雨、つまり慈雨のことで、戊辰戦争のとき農民有志を組織し北辰隊を指揮した地元の志士、遠藤七郎の雅号に由来。
天地陰陽の気が調和すると天から降るという「甘露」を思わせる名前だが、五百万石とこしいぶきを使い、キレはあるもののまろやかで口当たりのいい酒に仕上がっているという。

お酒は食事に合わせて

創業時は「八田酒造場」の名だった越後酒造場

製造比率は特定名称酒が90%、普通酒が10%。特定名称酒の中では純米酒の占める割合が多く、6割にも達しているという。 一般に米の味が出やすい純米で辛口を造るのは、難しくないのかと問うと、
「ここでは水質のせいもあって辛口タイプになります。阿賀野川の伏流水ですが、ドイツ硬度で1なんです。3以下は軟水ですから1だと超軟水になりますね」
しかし、越後酒造場では辛口だけでなく、幅を広げて商品をラインナップしているという。
「お酒は食事に合わせて飲んでいただくものだと思っています。新潟ではきれいでスッキリを辛口といい、越淡麗を使うと淡麗になります。
しかし、いわゆる淡麗辛口だけでは食事の相性に物足りない。 ですからうちでは芳醇タイプ、甘口、原酒も出しています」
春夏秋冬に合わせて季節商品もリリース、旬の食材に合わせて楽しんでもらっているという。
安定した変わらない酒造りを剛気に貫きながらも、お客様のニーズを敏感に感じ取り、時代と共に新しい分野も開拓して商品作りに反映していきたいと、社長は抱負を語った。
以下は蔵元がお勧めする商品。

取材/伝農浩子・文/八田信江