名杜氏の薫陶を得て蔵元杜氏デビューの『宝山』 業種を超えた仲間を巻き込み日本酒を楽しむ
宝山酒蔵

宝山酒蔵TAKARAYAMA shuzo

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PICK UP 2018

昨年、発表された、飯米の「新之助」でお酒を造りたいと思っていて、準備を進めています。お楽しみにお待ちください。

1885年創業。5代目となる渡邉桂太さんと女将さん

江戸時代には、京都、江戸に次ぐ花街を抱えていた新潟市。その奥座敷として賑わった岩室温泉から、越後一宮である彌彦神社へと続く道の途中に、宝山酒造はある。
弥彦神社へ行く前、あるいは岩室温泉へ向かう前のワンクッションにちょうどいいと、ツアー会社に相談されて本格的に始めた蔵見学。
今から25年ほど前のこと。酒蔵に一般の人を入れるところはまだ少ない時代だった。今では、年間で16000人も訪れる人気だという。

名杜氏の後を継ぐ蔵元杜氏

今期の造りから杜氏としてひとり立ちした5代目。

宝山酒造の次期5代目となる渡邉桂太さんが、蔵に戻って3造り目の冬を迎えた。30年近く勤めていた前杜氏が引退し、今期からは桂太さんが杜氏となって、造りを任せられることとなった。
「これがあったから、杜氏としてやっていけるかな、と思えたんです」 と話すのは、一昨年から取り組んだ20代だけでお酒を造ろうというというプロジェクト。
言葉にはしなかったが、子供の頃からおじいちゃんのように親しみ尊敬し、名杜氏と言われた青柳杜氏。
そのもとで2年学び、薫陶を得たとはいえ、その後を継いで杜氏の任に就くということが、桂太さんにとって、決して簡単なことではなかった様子も伺えた。

『二才の醸』の成功をバネに

蔵見学は全体を見渡せるようにルートが組まれている
見学も受け入れるため、常に掃除してきれいに保っている

『二才の醸』(にさいのかもし)の銘柄に、聞き覚えのある人もいるだろう。2014年に、20代で社長を継いだ埼玉県・石井酒造の石井誠さんと杜氏の和久田健吾さんという20代コンビによって造られ、大きな話題を呼んだ。
それが一昨年、杜氏が20代を卒業するにあたり、酒蔵を超えて銘柄を譲渡。次期蔵元&杜氏の渡邉桂太さんと営業の若松秀徳さんという宝山酒造農大同級生コンビへと、引き継がれたのだった。
20代に制限して集まってきた仲間は、酒造りはもちろん、販売、米作り、ラベルデザインまで、可能なところはできるだけ協力しあって造り上げた。
「友人や仕事関係ほか、酒造りには縁のないような人たちもたくさん参加してくれて、一緒に田植えや稲刈り、仕込みもしてくれました。
20代だけだし、コシヒカリの60%精米だし、どうなるか、と不安もなかったわけではないですが、みんなとにかく一生懸命やってくれて、その過程が楽しいことばかり。
大変なことも悩むことも多かったけれど、それも含めて楽しめたというか、やりがいがありました。そして、これが思いのほか美味しくできたんですよ。即、完売でした」
そして、間もなく30代への階段を上がる宝山20代コンビは、2期目にして最後の『二才の醸』を完成させた。それは、次の『二才の醸』に挑戦する20代コンビへのバトンでもある。

「コシヒカリ」だけで酒を造る

サーマルタンクで温度管理

5代目になる桂太さんは、銘柄譲渡という責任あるお酒の原材料に、リスキーとも思える飯米の「コシヒカリ」で臨んだ。
じつは、「コシヒカリ」で造る日本酒こそが、今となっては『宝山』を語るときに欠かせないひとつの柱でありカラー。「コシヒカリ」で造るからこそ、『宝山』の『二才の醸』となるからだった。
現在社長の4代目渡邉誠志さんも、引退した青柳杜氏もまだ若かった20年ほど前のこと。4代目が友人とコシヒカリのご飯を当たり前のように食べながら、「これでお酒を造ったら、美味しいのかな」、と聞かれたのだという。

「コシヒカリを麹米に」という挑戦

江戸時代の茶屋のような風情も。

酒造りを少しでも知っている人なら、心白の小さい飯米でお酒が造れるものなのか、とまず、思うところだろう。掛け米として使用するのがむしろ一般的。
4代目が、コシヒカリで造れるものかどうかと、新潟県醸造試験場に聞き行った際にも、「麹は五百万石か山田錦にして、掛け米をコシヒカリにしなさい」と指導されたという。
極論をいえば、酒米と飯米では、必要な要素が逆。酒米でさえ雑味のないお酒を造るために大量に磨くことになる。
ところが、醸造試験場のアドバイスに青柳杜氏が、「麹もコシヒカリでなければ意味がない」と職人の意地を見せたのだ。 それから数年、青柳杜氏と4代目のチャレンジが続く。失敗も繰り返し、苦労の末に完成させた『コシヒカリ 純米吟醸 宝山』は、蔵を代表するお酒のひとつとなった。

人気の酒蔵見学

歴史を結ぶ街道沿いにぴったりの風情ある建物。
蔵見学のあとは庭を眺めるお座敷で試飲もでき、ゆったりした時間を過ごせる

「最初は、不安でしかなかったんです」と、主に蔵見学を担当している女将さんが話す。先代の頃から少しずつ受け入れていたとはいえ、ツアー会社に頼まれて引き受けることは、勇気もいることだった。
しかし、団体客にも個人客にも同じように、我が家に招き入れる気持ちで接し、熱心な解説や、お座敷に場所を移しての酒造りの説明、そのあとの試飲という充実した案内が大好評。
街道沿いに建つ、昔ながらの佇まいの小さな酒蔵。きっと、それまでも覗いてみたいと思っていた人は多かったに違いない。 最後の試飲は、庭を眺める立派な座敷だ。
「家族は使わない場所なので、有効利用できてよかったんです」と、笑って話す。
予約は必要だが、見学は無料で行っている。
桂太さん:弥彦・多宝の伏流水である敷地内の井戸水を仕込み水に、お米は、米どころ・新潟の誇りとして、県産米にこだわって、手造りで行っています。
地元からたくさんのものをいただいていますので、地元を元気にできる存在でありたいと思っています。新潟に是非、いらしてください。
蔵元が勧めるお酒を紹介しよう。

取材・文 / 伝農浩子