天然湧水仕込みに総槽搾り 新潟・糸魚川『雪鶴』の蔵元杜氏が手塩にかけて育てるもの
田原酒造

田原酒造TAHARA shuzo

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PICK UP 2022

「雪鶴」には新しく瓶燗火入れシリーズがあります。純米酒瓶燗火入れと純米吟醸瓶燗火入れの2種です。お酒の美味しさと香りを逃さないように、瓶燗火入れという手法で瓶詰め。その後役半年の熟成を経て、より美味しく仕上がりました。お目にとまりましたら是非お手にとってみてください。

「『雪鶴』は力強い旨みがあり、かつキレのいい旨み豊かな地酒」 明治30年創業の田原酒造5代目当主・田原与一さんは、自信を込めて語る。60歳で代表取締役に就任したが、その2年後に杜氏が急逝。以来、自ら杜氏役を担っている。

マニアックな飲み手も支持

雪鶴ラインナップ

田原酒造では、特定名称酒の製造割合が85%。淡麗辛口の新潟酒の中で旨味豊かで力強い味は、マニアックな客層が多いと蔵元は分析する。
雪の原野を優雅に舞う鶴をイメージして、『雪鶴』と命名したのは新潟財務局鑑定官の田中哲郎氏。戦前戦後と新潟県の日本酒業界を指導し、「新潟銘酒の父」と呼ばれた人物だ。
「研醸会」を設立して、国税局を退官後も『越乃寒梅』や『八海山』を含む県内16社の酒造りに関わった。造りには厳格すぎるほどの姿勢で臨むことを求め、杜氏たちを震え上がらせたと言い伝えられる。
雪国の綺麗なお酒を前提に、口当たり柔らかく酔い覚め爽快、体に優しい『雪鶴』の原型は、この時代に形作られた。 豊かな旨味と爽快なキレ味を求め続けています。

天然湧水で仕込む

清らかな市野々水源

雪鶴に使われる仕込み水は、頸城駒ヶ岳山麓の天然湧水。湧水の里西海地区(西海谷市野々)の湿原には、きめ細かく柔らかな水が湧く。
田原酒造では水利権を持つ農業組合と契約し、この天然湧水を取水。積載量2tのタンクローリー車で片道30分かけて汲みに行く。
12月中旬から3月初旬までは積雪で通行不能になるため、蔵内に1万ℓのタンクを設置し、仕込み水を確保している。 「水道料より高くつきます……」と蔵元は語るが、そうまでしてもこの水は雪鶴の酒質に欠かせないそうだ。
敷地内には井戸があり、かつてはその水を使っていたが、こちらは中硬水。辛口酒には向いているが、口当たり柔らかく優しい雪鶴を造るには適さないと語る。

保湿保温効果抜群の麹室

電熱器1台で温度管理できる保温性に優れた麹室

造りは和釡と甑で米を蒸し、解放タンクに仕込む。解放タンクのために、蔵付き酵母の影響もあって、雪鶴の酒質は生れるという。
昭和初期建造の麹室は壁厚1m、天井や床と共に籾殻がぎっしり詰められている。「籾殻は保温性に優れ、断熱材として優秀なんですね。熱源は電熱器ひとつで、30℃台を維持できます」と田原蔵元。
ここで造られる麹は昔ながらの箱麹法によるもの。小箱麹による少量仕込みだ。

総槽搾りで上槽

自ら造りの指揮をとる5代目蔵元田原与一さん

発酵した醪は、総槽掛け袋搾りで上槽される。布でできた酒袋に醪を入れた後、槽に敷き詰めて、最初は積まれた酒袋の自重で酒がほとばしり出てくる。圧搾機で搾るより時間も手間もかかるが、味わいは綺麗。雑味の少ないお酒となる。
蔵には佐瀬式の搾り機が2基あるが、珍しいことにいずれにも槽の外側には白いタイルが張り詰められている。昭和の中頃に導入したらしいが、なんとも優雅。上槽という最終工程に、白い雪原を舞い立つ鶴に思いを重ねたのだろうか。

製法特許の清酒の改良技術

特許製法に使う水処理機

雪鶴は、「酔い覚め爽やか、楽しいお酒」を謳っている。その根拠は4代目が開発した特許製法。NASAで使っていた水処理機を利用するもので、それがもたらす特長は…
① 水とアルコールを強力に水和させることにより、長期熟成を経たように円く柔らかく口当たり優しいお酒になる。
② アルコールの吸収と分解をスムーズにするので、悪酔いの因子(活性酸素とアセトアルデヒド)の発生を抑え、体に優しい酔い覚め爽快なお酒になる。
③強力な還元力で酒の酸化を抑えるため、飲酒の後口に清涼感があり飲み飽きしない楽しいお酒になる。
この製法は昭和63年に特許を取得。新酒や無濾過生原酒もこの製法を利用すれば、ぴりぴり感が和らぐという。

ブラックシリーズを展開

田原5代目:『雪鶴』の2015年の新商品を発売する際に「ブラック」の名をつけました。鶴なのになぜブラック?と思われますよね。じつは糸魚川ではご当地グルメに「ブラック」の名がついています。ブラック焼きそばはその代表。地酒もその仲間にとの思いで、誕生したものです。
このお酒は超辛口ですが、女性にも飲んでいただきたいと考え、昨年、やや甘味旨みを持たせた「ブラックレディー」も新発売しました。男女ペアで「ブラック」と「ブラックレディ-」を飲み比べてみてください。

出荷するお酒は全て、熟成効果をもたらす装置を通しているという雪鶴。「口当たり柔らかで優しく、旨み豊かで酔い覚め爽快」がキャッチフレーズだ。蔵の代表商品は次の通り。

取材・文 / 八田信江